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短編 心霊

国有鉄道の宿舎【ゆっくり朗読】

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かつての国有鉄道には宿舎(いわゆる社宅)があった。

942 :本当にあった怖い名無し:2022/01/06(木) 11:28:17.87 ID:YQdbeFq20.net

アパートみたいなところから一軒家のようなものまで様々で、家族が住んでいる、管理局のある街とは離れたところへ転勤命令が出た場合、単身で赴任先の街に行く事がしばしばあった。

父も、とある街へ首席助役として赴くことになったが、機関区の近くの宿舎ではなく、300mほど離れた山の中腹にある一軒屋、いわゆる高級宿舎に入ることになった。

山─と言ってもその街の駅前にある繁華街のど真ん中なのだが─のふもとにある専用の駐車場にクルマを止め、斜面を歩いて20mも登るかどうかの距離でその宿舎の玄関まで行くことができた。

昭和の終わり頃の当時でさえ、その宿舎がかなり古い建物であることが分かった。

中学生だった私は、母と共に宿舎の鍵を開けて玄関から中に入り、荷物をクルマから運び入れるため駐車場と何回も往復した。

前の住人がきれいに掃除したのだろう、しかし少しカビ臭く、窓という窓(しかも木製枠)を開け、持ち込んだ掃除機で掃除したり、座敷箒で畳の上を掃いたり、拭き掃除をしたりした。

掃除の途中、私は催してトイレに行った。

水洗だが、木製の箱で覆われた水タンクが天井近くにあるタイプでもちろん和式。
用が済んだら把手付きの鎖を引っ張るやつだ。
今ではとんとお目にかからない。

ここから想像すると、昭和20年代半ば頃にこの宿舎は建てられたのではないかと思われた。

トイレを出ると、不意に人の気配がした。
母かと思って呼んだが返事がない。
誰だろうと思っていると、母は外で庭の掃除をしているのがわかった。

この時は不思議に思わず、私は部屋の掃除を続けた。

街の中心部にある火の見櫓のスピーカーから、午後5時を知らせる音楽が流れ「良い子は家に帰りましょう」とのアナウンスがあった。

日は山に沈もうとしている。

私は、「一見してのどかでいい街だなぁ、転校してこの街に来たらどんな毎日だったかなぁ」と考えながら、玄関を出て通りまで歩いて自販機のジュースを買って戻ると、縁側に座った母が驚いて声をかけて来た。

「今までお前がトイレから風呂場にかけて掃除をしていたのではないか。下から登って来たから驚いた。今の今まで音がしていた」という。

私は縁側から駆け上がってトイレから風呂場、台所、寝室と見て回ったが、何の姿も無かった。

私がさっきトイレから出たら人の気配がしたと母に告げると、とりあえず戸締りをきちんとして暗くならないうちに帰ろうということになった。

台所の窓を閉める時、北側の斜面の高いところに墓地が見えた。

上の方に墓地があると母に言うと、斜面の上に寺があると言う。

鍵をしっかり掛けて、この日は帰った。

父が単身赴任生活を始め、宿舎と機関区、休日は自宅宿舎のある管理局のある街と、三角ベースのような動きをして三ヶ月くらいが経った頃、「あの宿舎にはちょっとお化けのようなものが出るような気がする」と言い始めた。

夜寝るのに電気を消すと、障子に人影が写るので、電気を点けて勢いよく障子を開けると誰もいない。

気のせいかと障子を閉めて電気を消すとまた人影が写る。

気持ち悪いので電気を点けたまま床に就こうとすると、今度は襖を誰かが叩く。
開けようとすると開かないのだ、と。

食事も外で済ませ、洗濯と入浴だけ宿舎でして、機関区の仮眠室で寝ている、というものだった。

とりあえず何とかなってるからいいか、と思っていたのも束の間、ある日、夜8時過ぎに電話がかかって来た。

障子の向こうから、とうに亡くなったはずの自身の祖母から語りかけがあった、という電話だった。

今現在、襖が開かないので外に出られない。
どうしよう、というものだった。

内容が内容だけに、合鍵を持って今から宿舎に行くことになり、中学生の私も同行することに。

ただでは行けないので、知り合いのお寺でお札と御守りを貰って行くことにして、さっそくお寺に電話すると─すぐ来なさい─とのこと。

お寺でお経をあげてもらい、お札と御守りを持って父のいる宿舎へと向かった。

片道1時間半ほどで着き、玄関を開けた。

確かに父のいる寝室だけ電気が点いていたが、すぐに宿舎中の明かりを点け、寝室の襖を開けた。

何の抵抗もなく襖は開いたが、父曰く内側からは開かなかったとのこと。

お寺の住職の言いつけ通り寝室にお札を貼り、御守りを父に渡し、父は機関区に、母と私は来た道を帰り、夜半過ぎには帰宅した。

その後、宿舎で寝泊まりしても何も起こらなくなったという。

後日、父が玄関わきの、北隣の墓地との境の掃除をしていたら、土の中に白いかけらがあったという。

その昔「生」で埋めてた名残で、年を経て流れて来たのかな、と言っていたものの、やはりあまり居心地のいい宿舎では無かったらしい。

国有鉄道が無くなって久しいが、生前、父は「あの街の宿舎は嫌だったが、職場は最高に良かった。
人に恵まれたし、街も良かった」と良く言っていた。

また「奇妙なことも多かった。
昔と今の境だったのかもな」とも。

コロナの前、丁度4年ほど前に、自分の娘と一緒に列車の旅をしてその街に行ってみたが、当時の面影もないくらい発展していたし、宿舎も取り壊されて土地だけになっていた。
時の経つのは早く、もう一度この目であの宿舎を見たいと思っていたが、叶わなかったのが残念でならない。

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