俺が初めて師匠と仕事した時の話だ。
56 :1 ◆cvtbcmEgcY @\(^o^)/:2014/06/16(月) 16:45:05.12 ID:JdRLGct40.net
俺が初めて先生と仕事したのは、先生のところに転がりこんで3ヶ月くらいたった時だ。
それまでに一度仕事はあったんだけど、まだ早いと判断されたのか、連れて行かれなかった。
そんでその頃になると、最低限の仕事のタブーというか、そういうのを習い終わったので、連れて行かれることになった。
まぁ、あのままだったらただのただまし食らいだったしね。
早く働けるようになってほしかったんだろう。
そして、肝心の仕事の内容なんだけど。
トンネルに住みついた妖怪の退治だった。
先生によるとその仕事じたいは5年に一度やっているものらしくて、トンネルといってもそんなに大きなものではなくて。
ぎりぎり車が一台通れるかどうかの物で、長さも20メートルくらいとそんなに長くないやつだ。
そんで具体的な場所は伏せるけど、山に囲まれているような田舎にあるやつ。
小さいけど、わりと地元の人とかにとっては大切な通り道だ。
今までは事故があったとか、人が死んだりとかそういう噂は一切ない。
しかし、小さな問題がひとつあって、「最後」って妖怪がよくすみついたりするらしい。これは漢字で最後と書くんだけど「サイゴ」と読むんじゃなくて、「もじり」って読む。
みんなはもじり術とか分かるかな?
わからないひとは多分ぐぐったりすると分かると思うんだけど。
とりあえず昔の武器で、人を捕まえたりするための武器だ。
多分この妖怪もそっから来てるのかなぁ?と思うんだけど。
こいつはどんな奴か、具体的にいうと耳を引っ張る妖怪らしい。
夜にトンネルと通ったりすると、耳を引っ張るんだ。
まぁ、ただそれだけの妖怪だから、ぱっと聞いた感じあんま実害はない見たいだし、放っておいてもいいと思うだろうけど、この「最後」に耳を引っ張られた人間がどうなるかというと風邪をひくらしい。
なんで、昔は夜の間にトンネルを通らないほうがいいとかそういうのもあったりするらしい。
まぁ、その田舎なんだけど、やっぱり爺さん婆さんが多いらしく。
しかも、トンネルを通らないと病院に行けないので、たまに夜に通らないといけないときとかあったりするらしい。
そんときに、耳を引っ張られるんだよ。
じいさんばあさんだから、風邪になるともう大変だし、なんで地元の人たちがお金出しあって、何年かいっぺん追い払うことになってる。
まだ中学生だった俺は、まだなんというか世間知らずの部分があったので、とりあえずすべて先生の言うとおりにしていた。
先生に言われるままついて行った。
新幹線で1時間、ローカル線で1時間、地元の人が車で迎えに来てくれて、そこから約30分くらい?例のトンネルが見えた。
なんというか、決して心霊スポットとかそういう風貌はしてなかった。
田舎なのに結構綺麗だった。
というか、田舎だからこそ、たまに掃除とかも町内の当番でやるらしい。
そのまま、車でトンネルを通り過ぎて、地元の割と金持の人の家に行き、挨拶をすることになった。
結構大きな屋敷だった。
なんというか、サマーウォーズとかあるじゃん?
ぱっと見た感じ、あんな屋敷の印象があった。
出迎えてくれたのは、60歳ぐらいの男の人で、髪の毛がバーコードだった。
とりあえず、先生は丁寧に色々話してたんだけど、俺は最初に頭を下げた後は、ただ黙ってそれを見ているだけだった。
おっさんのバーコードがすごい気になった。
そんで、夜に仕事をして、その後その家を宿にするらしい。
帰りは次の日の午後になった。
わりと強行軍で、バーコードのおっさんはもっと泊って行ってもいいぞといったけど、先生は割と強めな口調でそれを断った。
そして、夜中の12時になると、先生は俺をつれてトンネルに向かい始めた。歩きでね。
トンネルから屋敷まで車で30分はあった。それだけの道のりを歩きでだ。
俺は正気を疑った。
しかも、割と荷物があって、それは全部おれが運ぶことになっていた。
まぁ、他にやれることないんだけど…
俺は先生に「車とか出してもらえばいいじゃないか」と聞いたが、先生はただ黙って、首を振った。
そんで、歩いて屋敷からかなり離れたところでやっと口をひらいた。
田舎の田んぼ道で2人でただたんたんと歩くだけだったので、俺はすごくこわかった。
でも、先生から教わった仕事のタブーのひとつが、仕事の時にもし怖い感情がまだある時は、決して口を開いていけないというものがあった。
なんか、口から逃げていくらしい。陽の気というかそういうのが。
普段なら構わないが、仕事前ならなるべく逃がさないほうがいいとか何とか……
なんで、俺のほうからは黙っているしかなかった。
先生が口を開いてくれて一安心だった。
俺はしゃべらなかったんだけど、先生は歩きながら、あのトンネルのこっち側に住む人とはあまりかかわらないほうがいい……というようななことを言ってきた。
俺はなぜそうしないといけないのかよくわからなかったんだけど。
とりあえず頭を縦に振った。
そんで、先生はそのあとも延々と細かい注意点を言い聞かせてくれた。
おかげてトンネルについたころは怖い感情は大分ぬけた。
というより疲れ過ぎてもうどうでもよくなってた。
帰りもこれかよ…と思うと地面にヘタりこみたくなった。
ちなみに、口を開かないのはあくまで準備の段階。
仕事中になったら、どんなに怖くても口を開かないと話に何ない時もあるしね。
トンネルについた先生は、俺の運んだ荷物から、蝋燭を2,3取り出した。
トンネルの前は割と風が強くて、なかなか蝋燭がうまくつかなかった。
俺は先生に呼ばれて、蝋燭の前に立った。まぁ、風よけになれよ的な感じだった。
それでやっと、それで蝋燭の火はうまくついた。
先生はそのろうそくをトンネルの前に立てた。
割と太いタイプの蝋燭だから、普段ならたぶんそうそう消えないんだけど。
その時はやはり風が大きいので俺が風よけとしてトンネルの外に残って、蝋燭の火を見守ることにした。
先生は荷物の中から長いしめ縄と、お香の灰と米と塩を混ぜたものと、耳あて、あと大量の卵を出して、それを持ったままトンネルに入って行った。
しばらくするとトンネルのほうから先生が何やら歌う声が聞こえてきた。
トンネルの中はとても暗かった。先生は暗いままでも大丈夫なのか?と思ったが、そんなことよりもひとりになったのもあるし、トンネルのその暗さが無性に怖くなって、トンネルのほうに背を向けたまま、蝋燭を護るような形で立っていた。
しばらく、俺はぼんやり蝋燭の火や自分の影を見つめながら、気を紛らわすために『鋼の錬金術』の内容とか思い出していた。
ちょうどそのころそれの一期?がアニメでやってた。
妖怪退治なら、あんなふうに、スパーと手から光出してかっこよくやりたいなぁとか、その頃の俺はまだ夢見てた。
そんで、かなりたってからやっと、俺はとあるおかしいことに気がついた。
俺は蝋燭に向かって立っている。
蝋燭の影はもちろん俺側に向かって伸びていて、俺の影もそうなるはずだ。
でも、俺の影は蝋燭の真横を通る感じに、伸びていた。
俺はそれに気がつくと、びっくりしちまって、すぐに振り返りたい欲求にとらわれた。
でも、いつも言っているように、夜道で振り返るのもタブーのひとつ。
なので、俺は必死に我慢した。
よく見てみると、その影は俺自身の物にしてはシルエットが少しだけおかしかった。
なにがおかしいのかうまく表現できないんだけど。
なんというかやけに頭が大きかった。
最初は光と影の加減でそうなったのかと思ったんだけど。
影がおかしいことに気がつくと、その違和感がどんどんと膨らんだ。
俺はその場で目を閉じた。怖くなったんだ。
それからどれくらい時間がたったのか
かなりたったのは確かだと思うが、先生が戻ってきた。
先生は目を閉じてじっと立っていた俺に目を開けさせるとなにが起きたのか聞いてきた。
俺は目を開けるとすぐにもう一度影を確認したが、蝋燭の横に伸びていた影はなくなっていた。
ほっと安心して、先生に影の話をした。
先生は荷物をまとめて、俺に持たせると、俺を連れて屋敷に戻り始めた。
そんで戻り道で、「最後」って妖怪はよくトンネルとか屋根裏とかにでるらしいけど、彼らがわく場所にはもっと条件が必要だ。
「最」って文字の由来は、大昔の中国で兵士が敵を倒したあと、恩賞をもらうために、敵の耳を集めるところからきたらしい。
そんで「後」って文字は道を歩いているときに、糸が足に絡みついたところからきた。ってらしい。
そんで「最後」ってのはどういう意味かというと。
「耳」を集めた兵士を闇うちして、その「耳」を自分の物にして恩賞をもらう。って感じの状態を表している。
そして、もじりは罪人を捕まえるために使われる。
昔ではこの妖怪が住みつく場所には、そういう風に闇うちされて手柄を持ってかれる人とかが死んで、その怨念にひかれて来るらしい。
俺はその話を聞いて、じゃあ、「最後」はその怨念を晴らすために罪人の耳を引っ張るんですか?と聞いたんだけど。先生はそこまではしらんといった。
だた、このトンネルのこっち側の地域は多分昔部落だったといった。
地理的にはぴったりだしなといった。
そんときの俺は部落とかよくわかんなかったから、部落の意味を先生に聞いて、昔の罪とかで未だに妖怪が住み着くのか?とかおもった。
そんな俺の気持ちを察したのか、先生は「最後」はそこまでしつこい妖怪じゃないし、普通一回追っ払うと、もう戻ってこない。
でも、戻ってくるということは、また何かしら新しく「怨念」が出来たからだ。といった。
俺は、新しい怨念?とぽかーんとした。
先生はさらに、だからこの場所の人とはあんまり接触しないほうがいい。なにがあるかわからんからな。とそう、付け加えた。
俺はおそるおそる先生に「じゃあ、俺が見たあの影はなんですか?」と聞いた。
先生は、さぁ?「最後」かもしれんし「怨念」かもしれん。
または全然関係ないものかもしれんし、光と影の関係で出来た偶然かもしれん。
と答えた。
次の日、先生はお金を受け取ると、俺を連れてさっさと屋敷をさった。