短編 家系にまつわる怖い話

家の秘密【ゆっくり朗読】3600

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これは俺が十年以上前に体験した話。

125:2007/03/09(金) 00:53:01 ID:5h1m6kWX0

当時僕は田舎にある実家に住んでいた。

実家は古くから立つ日本家屋ではあったが、あたり一面に田んぼがあるほどのド田舎という以外は、ごく普通のどこにでもあるような家だ。

大学も卒業したというのに、仕事も見つけずだらだらと過ごす毎日。

親には毎日のように非難を浴びせられていたが、じきにあきれられ、ほとんど放置された状態になった。

今思うと人生で一番最低な時期だったと思う。

ある日、蝉の声を聞きながら、いつもの様に縁側でぼーっとしているときだった。

「マサ」

名前を呼ばれて振り向くと、縁側を隔てたすぐ横の部屋にじいちゃんが立っていた。

よれよれのランニングシャツに、らくだ色の腹巻と股引き。

漫画から飛び出したような、まさに「じいちゃん」的な格好をいつもしている。

このじいちゃんは昔から俺に様々な体験をさせやがった人で、正直只者ではない事はガキの頃から知っていた。

じいちゃんは俺の向かい側に腰掛けた。

「お前、就職せんのんか?」

「するよ、近いうちに」

「はっ、嘘をつけ。一生親のすねかじりになるつもりじゃろうが?」

「ばれた?」

「おいマサ、この田舎には本当に必要とされとるやつか、バカのどっちかしか住んどらん。お前はどっちでもないから遠方へ出て働け」

「なんじゃそら(笑)」

「お前のために言っとるんじゃ」

その時のじいちゃんの目が異様に怖かった。

話してる声はいつもの優しいじいちゃんなのに、今まで見たことないくらい鋭い目が俺の間抜け面を捕らえた。

その時はまだじいちゃんの言いたいことがわからなかった。

その日の夜

夕飯を食べ終わって俺は居間でソファーに腰掛け、アイスクリームを頬ばりながら巨人戦をみていた。

「マサ」

またじいちゃんが話しかけてきた。相変わらず昼間と同じ格好をしている。

「何、どうしたの?」

本当は巨人戦に集中したかったが、以前この人に反抗して痛い目を見たので穏やかに返事をした。

「お前に話さんにゃいけん事があるんじゃ」

そういうとじいちゃんは、よっこらしょと言って俺の横に座り、語りだした。

「お前にこの家の秘密。教えちゃる」

「家の秘密?」

「この家の天井から、お前たまに変な物音がするって言っとったやろ?」

「……ん、ああ、まぁ……」

俺はこの家に生まれてから何十回と天井から物音を聞いていた。

ありきたりなんだが、誰かが全力ダッシュして天井のありとあらゆるところを走り回ったり(かなりの大音なんでガキの頃はビビッてた)風鳴りのような低いうめき声を聞いたり

「オン△※@:ギョウ~……」

とか変なお経みたいな声が聞こえたりしていて、それは当時もまだ続いていた。

でも遭遇するのはいつも俺一人の時で、両親にこの事を話しても相手にしてくれなかった。じいちゃんは例外だったが。

「それがどうかしたん?」

内心ドキドキしながら、じいちゃんにたずねた。

「あれなぁ、天井裏に祀っとるんよ」

「……何を?」

じいちゃんは「あ」と何かを言いかけて止めた。

「あ゛~名前いったらいけんけぇ……」

「いや、何それ?ちょっと、俺それだめじゃわ、確実にヤバイじゃん」

その時小動物が持つのと同じ鋭い『危険察知スイッチ』がビンビンに反応した。

「まぁ、こっち来いや」

じいちゃんの手にはいつの間に持ったのか、懐中電灯が二本握られていた。じいちゃんは満面の笑みを浮かべている。

すでに俺は冷や汗をかいていた。目的地に運ぶ足は重い。

二十年以上住み慣れた家だというのに、半端じゃない心霊スポットに連れて行かれている感覚だった。

心の準備をさせてくれ、と巨人戦を見終わってから行動し始めたので、確か時計の針は九時半を回っていたと思う。

両親は朝早く仕事があるからと、すでに寝室で寝息を立てている。いい気なものだ、息子はこれから死にに行く覚悟でいるというのに。

俺達二人は元いた場所から縁側を通りまっすぐ伸びる廊下を歩いていた。

「ここじゃ」

じいちゃんは俺の前でピタリと止まり、右側にあった襖を開けた。

ここは俺が小学低学年の頃まで使っていた『遊び部屋』。

ファミコンをしたり戦隊ものの人形を持ち込んだりして遊んでいた、非常に懐かしい場所だった。今は物置と化している。

すると俺はあることに気付いた。

「じいちゃん、……あれ……」

俺が指差す方向には、漆塗りでもされたような、真っ黒い二枚の木戸があった。

俺の記憶では当時そんなものはなくて、ただの白い押入れの襖のはずだった。

あまりの異様さに心臓が動きを早める。

「お前がここを使わんようになってすぐ、やり変えた」

じいちゃんは当たり前の様に言って震え上がる俺を尻目に木戸に手をかけた。

ゴゴ、ズーっ。

という音と共に木戸が開いた、中は真っ暗で何も見えない。

俺は急に気分が悪くなってきた。

その事をじいちゃんに訴えたが一言「そのうち慣れる」と言われ無視された。

(じいちゃんは絶対に鬼だと、以前にも増して憎しみを抱いた俺。

おもむろにじいちゃんは懐中電灯をつけ、押入れの天井を照らした。

「マサ、見てみ」

じいちゃんは俺の腕をつかんで無理矢理中を覗かした。

そこにはまた、不自然に黒く塗られた正方形の扉があった。

俺達はその扉から天井裏へと侵入した。

最初はじいちゃんを押し上げて、次に俺がその空間に入った瞬間先ほどとは比べ物にならないくらいの吐き気と悪寒に襲われた。

空気が重いなんてもんじゃない。

ヤバイ。

これ程まで命の危険を感じた事がないくらいヤバイ。

汗が干上がり、口の中がパサパサに乾く。

どう考えても尋常ではない空間。こんなところで平気な顔をしているじいちゃんが凄いと思った。

「じ、じいちゃん……俺だめ、もうだめ、ホンマかんべんして……っ」

いい年こいて俺はじいちゃんに泣きすがった。

「ダメじゃ、お前はきちんと見とけ」

じいちゃんは昼間に見た時以上に厳しい顔をしていた。

じいちゃんが何を考えているのかサッパリ分からない。

俺をこんな所に連れてきやがって、本気で殺す気だと心の中でじいちゃんを殺人者呼ばわりした。

とにかく落ち着こうとゆっくり息を吸って、むせた。

当たり前だがここは埃だらけ、深呼吸なんてすればむせるに決まってる。

周囲を見渡せば築九十年の家の骨組みがあらわになっていた。

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適当に懐中電灯を振り回していると、光の円の端にチカッと光るものが見えた。

なんだ?と思い、もう一度その方向に光を当てると、あった。

神棚のような、でも何だか少し様子が違う。よく分からないが祠のような、そんな感じのものが異様なオーラを出してたたずんでいた。

「じいちゃん、あれ何?」

俺の唇は震えて、まともにろれつが回らないのを必死にこらえた。

「あれが物音の原因よォ」

じいちゃんも祠に光を当てた。

が、急にじいちゃんは驚いた顔をして俺から懐中電灯を奪い取ると、二つともスイッチを切った。

目の前は闇に包まれた。あの顔からするとじいちゃんはかなり焦っている。

「じいちゃんっ?」

俺は暗闇とじいちゃんのあせりの表情を見てなかばパニックにおちいっていた。

「しっ、黙っとれ!」

じいちゃんが小声で、強く俺に言い聞かせた。

「マサ、今から出口に行く。それまで息止めぇよ」

「はっ?息と、止めるっ?」

「ええけぇ早よぉせえ!出口に着くまであれから目を離すなよ!」

あれとは祠の事、だが訳が分からない。

なぜ息を止めながら祠を見て出口まで向かうんだっ?

その時はパニくりながらも言われたとおりにした。

この時は暗闇に目も慣れてきだしたから大体の輪郭は見えている。

息を大きく吸い込んですぐ、異変は現れた。

祠の扉から変な影の様な物がニュルっと出てきた。

「それ」を見た俺の動きは一瞬にして固まった。

もう思考回路はショート寸前。よく見るとそれは人の形をしていた。

暗闇よりも暗い色。動きは鈍い。

左右に揺れたり、突然倒れたかと思うと四つんばいになってクモみたいな動きをしたり、俺の文章力では表しきれない程気持ち悪い動きをしていた。

初めて見る「それ」は恐怖どころか興味を抱かせた。

だが、危険なものに変わりはない。明らかにこの世のものではなくて、俺の脚はがくがく震えていた。

「それ」から目を離せないでいると、じいちゃんが俺の服のすそを引っ張って出口まで後ずさるようにうながした。

幸い奴はこんな近距離にいる俺達に気付いていない。

多分息を止めるように言ったのはこいつに気付かれない様にするためだったんだろう。

俺達はなるべく足音を立てずに出口にたどり着いた。

出口からそっと降りる時まで奴から目を離せないでいた。

奴が動くたび天井裏で不気味な足音がなり続けていた。

俺は部屋に足をつけた瞬間、じいちゃんを置いて居間まで猛ダッシュした。

電気をつけて、テレビのスイッチを入れてついさっきまでいた異次元ワールドから俗世間へと必死になって逃げ込んだ。

すぐにじいちゃんが居間にやってきた。

「見たろう、凄かろうがアレ」

じいちゃんは俺の怖がる姿を見てご満悦という表情をした。

あんなものを見せられた俺はたまったもんじゃない。

あれに気付かれてたら絶対に命の保障はなかった。間違いない、絶対そうだ。

「何なんよあれっ!じいちゃんホンマ何がしたいん!?」

興奮した俺は切れながらじいちゃんに言った。

「がはははっあれな、先祖に恨みを持っちょる霊で、わしも詳しくは知らんのんじゃが、あまりにも危ないけぇってウチの先祖が祠に祀って、あれを天井裏に閉じ込めとっての、黒い襖は結界みたいなもんよ。
安全のために近くのお寺さんに頼んで作ってもらった。名前言ったらいけんのは名前を聞いた人がアレに憑かれるからなんじゃ」

憑かれる……(=死と隣り合わせ)想像を絶する言葉に俺は気が遠くなった。しかしそこで疑問が生まれた。

「……でもじいちゃんは、名前聞いとるんじゃろ?それでなんで無事なん?」

「秘密」

その後何度も理由を聞いたが何も教えてくれなかった。

翌日朝、俺はまた縁側にいた。

昨日の事は夢だったのではないか?多分そうだ、ウチにあんなものがあるわけがない。

そう言い聞かせようとしていた矢先、じいちゃんがまた俺の向かい側に座った。あまり見たくない人物だというのに。

「おはよう、じいちゃん」

とりあえずあいさつをした。これで昔かたぎの人だからあいさつにはうるさい。どんなに不機嫌でもあいさつはしなくてはならない。

「おう、おはよう」

じいちゃんも笑顔で返した、が、じいちゃんは俺を見るなり両膝に両手を置いた。そして
「〇〇〇〇〇」

?今、じいちゃんは何を言った?

「じいちゃん?」

「〇〇〇〇〇」

俺はすぐにその言葉の意味が分かった。

間違いない、「アレ」の名前だ!俺が記憶のブラックホールへ投げ込もうとしていた昨日の事が一気に蘇った。夢などではない。

それどころかこのキチガイ爺は俺に「アレ」の名前を言いやがった。

「お、分かったか?安心せぇ、この家におらんかったら憑かれんけぇ。あれはこの家からはでられんのんよ」

などとのんきに笑い続けた。

その後すぐに東京で仕事を見つけて、あの家を出たのは言うまでもない。

ちなみにじいちゃんはその二年後に亡くなりました。

嫌だと思いながら仕方なしに葬式に出るため実家に帰りましたが、別に何も起こりませんでしたよ。

多分じいちゃんが俺を家から追い出すために嘘をついたんだと思います。

(了)

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