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短編 山にまつわる怖い話

たちきれ

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別れさせ屋

大学時代、同じ山岳部に所属していた先輩後輩の間柄であった、男二人の会話。

「いまだから言うけれども、お前がうちの妹と結婚するもんだと思っていたよ。うちに遊びに来てくれたときになんて、けっこういい雰囲気だったのにな」

「いやー、ちょうど会社のほうで、『支社に行かないか』って話があって……」

「それにしても、もっとこまめに連絡とかよこせばよかったのに。そんなことだからFのヤツ(同じ山岳部にいた後輩と同期の人)なんかにとられちまうんだよ。正直なところ、俺はお前のほうが妹にあうと思っていたのになー。妹もお前のこと結構気に入ってたんだぜ?」

「そうですか……」

そこで後輩は、こんな話をぽつぽつと語り始めた。

後輩は卒業して会社員になってから、K山に一人で登山に行ったことがある。

今まで仲間と何度も来たことのある山なのに、なぜか道を間違え迷ってしまったらしい。

心細い気分で尾根伝いに歩いていると、ガスが出始めたらしい。

まいったな……と思っていると、むこうのほうから誰かが来る気配がした。

良かった、道を聞こう。と思い呼びかけてみると、姿を現したのは、白い着物を着た少女だった。

右手に杖を持ち、こちらを睨みながら近づいてくる。

この世のものではない……後輩はそう感じとった。

少女は低い小さな声で、「なんじをかえすわけにはゆかぬ」と言った。

ものすごい威圧感があり、後輩はその場にへたりこんでしまった。

少女は後輩のまわりをぐるぐるまわり、もう一度「なんじをかえずわけにはゆかぬ」と言った。

後輩はわけがわからないまま、もうひたすら「ごめんなさい、ゆるしてください。ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返したらしい。

すると少女は後輩の後ろでぴたりと止まり、そのまま何もいわなくなったが、もうその気配がただただ恐ろしく、生きた心地がしなかったらしい。

どれくらい時間が経っただろうか、目の前にチャリンと何かが投げられた。

後輩が持っていた、家のカギにつけていたキーホルダーだった。

それは、後輩が周囲に内緒でつきあっていた先輩の妹と一緒に旅行に行った先で、記念におそろいで買ったものだった。

なんでこんなものを……と思い顔をあげると、もう目の前にはあの少女が立っており、恐ろしい顔をして「たちきれ」と言った。

その瞬間後輩は、それまであんなに好きだった先輩の妹とは別れなくてはいけない、と直感的に思ったらしい。

後輩が必死になって頷くと、背中にドンという衝撃があり、そのまま気を失ってしまった。

気がつくと見覚えのあるあたりで倒れており、何時間もさまよったはずなのに、時間もたいして経っていなかった。

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どこか異世界に迷い込んでしまったようだ。後輩はそう思った。

その頃ちょうど会社で支社に行く話がでていたので、後輩は大急ぎでそれをうけ、日本を離れることにした。

彼女から会社経由で何度も連絡があったが、返事はしなかった。

しばらくしてから、風の噂で、Fが彼女と結婚したことを知った。

Fとは、彼女をめぐってライバルだったことがある。

Fはまじめでいいやつだ。幸せになってくれればそれでいいと思った。

「お前ら……つきあっていたのか」

後輩は黙って頷いた。

「それにしても、そんな夢みたいな話をそのまま信じて、わかれちまうなんて……」

先輩があきれたように言うと、後輩は首を振った。

「夢なんかじゃないです」

そういうと着ていたポロシャツをめくり、背中をそちらに向けた。

「おい……」

そこには棒でついたような、黒々とした痣ができていた。

「あのあと気がついたら、こんなものができていたんです。あの少女に突かれたときに出来たんですよ、きっと。もう十年以上経つのに消えないんですよ。それに……」

後輩は少し笑うと後を続けた。

「先輩がさっき見せてくれた、小学生になった姪御さんの写真。あれを見て驚きました。僕があのとき山の中で会ったのは、確かにこの子なんですよ」

私の叔父と、その後輩の話です。

つまり私は生まれる前、山で自分の父親のライバルとなる人間と母親との間を裂いたことがあるらしいです。

覚えはないんですが……

(了)

 

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