おいらの母ちゃんと親父の事なんだけど、この二人は20年近く前に離婚している間なんだが、死んだときには変な絆があったんだなという話。
249 :2008/11/15(土) 19:50:57 ID:VnJuDMif0
ある冬に親父が山で遭難した。昔から山登りが好きだったが一人で行くし、物凄く頻繁に行くしでとうとうやっちゃったかという感じだった。
捜索隊も出て、何日も探したが結局見つからなかった。
そんな親父が行方不明になってから数ヵ月後、母親が胃がむかむかするとか言い出してきた。それでいくつもの病院に行って色々検査したが原因がわからない。
どうしたもんかな~~とか思っていたある日、おいらが夢を見た。
その夢ではおいらが親父と話していた。おいらが親父に言った。
「母ちゃんの症状の原因がわからない。色々検査したけど異常なし。いったいどういうことだろう」
そうしたら親父が一言ぽつりと言った。
「腫瘍マーカーは調べたか?」
そこでおいらは目が覚めた。
その時は夢だし、母ちゃんが癌なんて馬鹿な!とか思ったんで忘れちゃってたんだけどその夢を見た一ヵ月後、母ちゃんとおいらは癌センターのお医者さんに呼ばれて「すい臓がんです」って言われてしまった。
すい臓がんって言うものは、なかなか見つからない。
すい臓って体の完全に内側にあるんで、一般的な検査では見つからないんだ。
見つかるとするならCTみたいな体を輪切りにしてみる検査か、もしくは癌になったときに異常高値になる「腫瘍マーカー」を見るしかないわけだ。
ということであの夢で親父が事前に母ちゃんの危機を知らせてくれたことになる。
あのときの夢をおいらがちゃんと受け取って検査していたらと思うと
今でも後悔しているよ。
そしてすい臓がんを告知されてから闘病生活を始めて六ヶ月後、闘病むなしく母ちゃんは他界した。
おいらもずっと介護して来ただけに言いようもないぐらい悲しかったが、残念ながらそうも言っていられない。
役所的な書類手続きやら、お葬式の準備やらそれにおいらは長男だったんで喪主だったし、正直言うと親父のことも忘れていた。
そしてお葬式もつつがなく進行し、火葬も終わり、おいらが来て下さった方々への挨拶し、さぁ告別式が終了って言うときにいきなりおいらの携帯に電話がかかってきた。
着信見てみるとおいらの父方の叔父からだった。
電話に出ると叔父は開口一番こう言った。
「君のお父さんのリュックサックが見つかりました!」
何でも地元の山岳会の人達が失踪してからも山登りついでに捜索していたらしくて、その一人が打ち捨てられたぼろぼろのリュックを発見したらしい。
おいらは式場で呆然と立ち尽くしたよ。
だって母ちゃん死んでからまだ五日ぐらいしか経ってない現状で、一年以上前に失踪した親父の遺品が見つかり、更に葬式の最中に連絡が来るなんて偶然にもほどがある。
しかも後日聞いたことなんだがリュックが見つかった日というのもその葬式の日ではなかったんだ。
リュックが見つかって地元の警察に届けて、それがおいらの親父のものだとわかってから初めて親族に連絡されたらしい。
それで実際にそのリュックが見つかったのがまさに母ちゃんが死んだ日だった。
だからおいらの母ちゃんが息を引き取ってからその数時間以内にリュックは発見されたことになる。
後にそれがきっかけで山岳隊の再捜索が行われ、骨一本だったけど親父の遺体が見つかった。
なんとも奇妙だが書類上ではおいらの母ちゃんと親父の死亡日は一週間ぐらいしか違うわないものになった。
おいらたち子供は冗談でこう言ったよ。
「母ちゃんが『あんた、子供に迷惑かけないでちゃんと出て行きなさい!』って、あの世で親父のケツひっぱたいて追い出したんじゃないか(笑)」
まぁとにかく親父は夢で俺達に母ちゃんの危機を教えてくれた、それで母ちゃんは死んだあとに行方不明の親父を発見してくれた、と言う感じでおいら達子供は考えている。
もう昔に別れた夫婦が何の因果か天国でまた一緒になりましたとさ、という感じだ。
(了)
生まれ変わりの村