友達から聞いた話。
真夜中、夏のくそ暑い日に、仲の良い友達数人で、海辺で花火をして遊んでいました。
薄暗い砂浜を、花火を向けあってわぁわぁ言いながら走り回っていると、友達の一人がいきなり、あっ!と真っ青な顔をして海の方を指差しました。
「人が溺れてる」
指差した先には、暗い海の中、遠く離れたとこで、ばしゃばしゃ苦しそうにもがいている人がいるのが微かに見えました。
楽しい空気も一変、これは大変だとみんな青ざめ、救助を呼ぼうにも携帯は圏外。
泳ぎの得意な奴が二人、助けに行こうと海に入ったその時、
「やめとけっ!」
後方からの突然の大声に、みんなが驚いて振り向くと、そこにはいつからいたのか、さっきまではいなかった見知らぬおっさんが。
その手には双眼鏡を持っていて、助けに行こうとした一人に「これで向こう見てみろ」と手渡されました。
何なんだこのおっさんと不審に思いつつ双眼鏡を覗くと……
レンズの先には、溺れていた女が笑顔でこっちに手を降っていました。
その笑顔があまりに不気味で全身鳥肌、ガタガタ震えていると、
「あの女はこの世のものではないから、助けに行ってたら危なかったよ。今日はもう帰りなさい」
とおっさんから言われ、怖くてみな一目散に帰宅しました。
後日、友達にその話を聞いた時には、
「今思えばそのおじさん、何であんな真夜中に一人で双眼鏡持って人気のない海にいたんだろうな……」
ってぼそっと言われ、更にゾッとしました。
(了)