聞かされて背筋が薄ら寒くなった。
400 部屋の音 2005/08/01(月) 17:03:29 ID:9Fa0RQ7T0
別に祟られてどうこうって重大な結果には至ってないが、一人暮らしの人はちょい怖いかも。
飲みの席で、先輩から聞かされたその友人(以下斎藤さん)のお話。
今から数年前、大学進学を機に一人暮らしを熱烈希望していた斎藤さんは、金銭的+通える距離のため、反対していた家族との折り合い、という意味も含め、斎藤さんの叔父が持っていたアパートの一室を紹介してもらうことになった。
仕送りは最低限、あとは自分で何とかしろ、が第一条件だったので、とにかく安く、と頼んでいた斎藤さんに叔父さんが紹介した部屋は、事故物件、ではないものの、いわくありの部屋。
数代前の住人がメンヘラで、最終的には外でだが、自殺してしまったという所。
それ以来、借り手が長くいつかず、放置気味になっていたということだった。
叔父さんも、
「お前の希望額だとここしか貸せんのだが……正直、あまりすすめられんぞ。はっきり言うと、俺もこの部屋の空気……っていうのか、なんか嫌いなんだよ」
などと忠告していたが、斎藤さんはなかなか豪気な人で、
「安いにこしたことはないし、大丈夫だって。俺そういうの気にしないもん」
と、押し切って住むこととなった。
斎藤さんの自信にも、根拠がなかったわけじゃなく、その亡くなった人もこの部屋で亡くなったわけじゃないし、引き払った借り主たちも、別に入院したとか、事故にあったとか、きな臭い後日談があったわけじゃない(叔父さん情報)
しかしまあ、実際に住んでみると、「不気味」と言われるのも理解できるようなことがあったそうで。
普段は別に何もないんだけど、たまに部屋がしーんと静まり返っている深夜などに、変な音が聞こえてくることがあったという。
シャリッ、シャリッと、どことなく軽快な、何かを擦り合わせるような音。
注意していないと聞き漏らすような小さなな音だったけど、たまにどこからか聞こえる。
アパートのほかの住人ではない、ということは、以前の住人から相談を受けた叔父さんが確認しているという。となれば彼の部屋しかありえないわけだが、聞こえてくる。
初めは斎藤さんも無視していたそうだが、その内あまりにも気になってきて、音の発生源を求めて部屋中をチェックしたそうだ。
それでも発生源が見つかることなく、さすがに多少のイライラが募ってきていた頃、またある日の深夜、寝ていたらシャリッ、シャリッという音が聞こえてきた。
これまでの経験から、あんまりドタバタ騒ぐとその音が止んでしまう、ということを学習していた斎藤さん。音を立てないようにそろりと寝床を抜け出して、とにかく耳を澄まして音の発生源をさぐった。
結果その音は、彼の部屋の押入れの方から聞こえてきていた。
さすがにゾッとして、その日はとっさに部屋の電気を付け、深夜ラジオを付け、シャリシャリが聞こえなくなったことを確認してからそのまま就寝。
あくる日、これまで何度も調べたはずの押入れの再調査をすることとにした。
次の日、叔父を呼んで事情を説明。二人で押入れを見てみることに。
とはいえ、開けてみても斎藤さんの少ない荷物が納まっているだけで、別段怪しいものはない。意を決して、荷物を全て出し、潜り込んで調べてみることに。
すると、あちこちいじってみた結果、意外なものが見つかった。
斎藤さんの部屋は、二階建てアパートの二階の一室。
その押入れの上の段、その天井はベニヤの合板を釘で打ちつけたもので、普通は取れるようになっていない。
その上は、誰も立ち入ることのない屋根裏だ。
押入れをよく調べると、その天井のベニヤの一端が、釘が抜かれてポッコリと外れるようになっていた。
普段はうまいことに、カッチリとはめ込んで、取れないようにしていたらしかった。
意味深なその板を外しても、頭を入れることすら出来ないような小さなスペース。
それでも、斎藤さんも内心ドキドキしながら、手を突っ込んでがさごそとあさってみた。
すると、なにやら手に触れる、大きくはないが硬くて重い感触。
意を決して引っ張り出してみた。
斎藤さんの手に握られて出てきたのは、ハサミだった。
大振りの裁縫とかに使う裁断用の鉄バサミ。
刃の部分は赤茶けてすっかり錆びていて、ぼろぼろだったが、そこで叔父さんは気付いてしまった。
「おい、斎藤……これ……錆びてるの、きっと血のせいだよ……。うん、間違いない」
顔を真っ青にした叔父さんからそう言われて、さすがの斎藤さんもビビって、そのハサミを落としてしまったそうな。
叔父さんからの事情説明が始まった。件の、自殺してしまったこの部屋のもと住人の話だ。
そのメンヘルさんは、結構長いこと心を患っていて、自傷癖があったそうで。
メンヘルさんのご家族もそう遠くないところに住んでいて、ちょくちょく面倒を見に来ていたそうだが、自傷を止めようとしないメンヘルさんを止めるために、家中の刃物という刃物を取り上げていたらしい。
それでも、取り上げるたびにまた自分で買って自傷し、それをまた取り上げる、という悪循環。
家に連れ戻そうにも、そうしようとすると暴れて手が付けられなくなり、仕方なく、離れて暮らしながらもちょくちょく訪れては見守る、という生活をしていたらしい。
そうこうしているうちに、メンヘルさんは自殺。
その人の荷物は全て、家族が来て引き払ってそれっきり……という話だったそうで。
でも、どうやらメンヘルさん、家族に取り上げられないため、こっそりこのハサミはここに隠していた。
他は取り上げられても、これだけは……そんなことだったんじゃないかと、叔父さんは語った。
後になってみれば、あのシャリシャリという音は、ハサミを打ち鳴らすシャキリ、シャキリという二枚の刃の擦れる音だと思うと納得がいった。
その刃で後の住民が傷つけられることはなかったが、外で亡くなったメンヘルさんの浮かばれぬ霊魂が、この部屋に帰ってきては押入れのハサミを取り出し、自傷にふけっていたのではないか……
そう考えてしまい、斎藤さんもこの時は凄い恐怖に襲われたという。
その後、ハサミは叔父さんの手でメンヘルさんのご家族の手に還され、供養されたとか。
斎藤さんは、怪異の起きなくなった件の部屋で、大学卒業まで暮らしたというお話でした。
(了)
[出典:http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1122520059]