短編 ほんのり怖い話

深夜の唄声老婆#581-0120

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去年の五月あたりに体験した話です。

深夜に家でネットをやっていたら、外から老婆の歌声が聞こえてきた。

私の家は住宅街にあります。

住宅街といっても、田舎の住宅街なので薄暗く寂しいものですけどね……

まれに深夜に酔っ払いが歌いながら帰宅することがあるので、また酔っ払いかと思った。

けれど、老婆は変だろうと思い気になって仕方がなくなった。

私は急いでパジャマの上に上着をはおって外に出た。

老婆なので歩く速度が遅いらしく、歌声は家からまだ近い。

家のすぐ近くのT字路を右折したらすぐに老婆の後姿が見えた。

私はなるべく足音を立てないように歩いていたのだが、なぜか老婆はすぐにこちらに振り返った。

私は気づかれないように様子を見ようとしていたので、突然振り返ってきてビックリしてしまった。

老婆は歌うのをやめ、「誰だい?」と聞いてきた。

私はとりあえず、「近所の者です、夜風に当たりたくなって散歩しているんですよ」と笑顔で答えた。

私と老婆は五メートルぐらい離れていたのですが、老婆がこちらに向かってきた。

老婆は私に何か小さな物を差し出し、「あげる」と言ってきた。

私は条件反射でそれを受け取ってしまった。

受け取ったそれは、コロンとした重さがあり、ビニールに包まれていた。

私は呆気にとられたまま、老婆に「ありがとうございます」とお礼を言い、家に引き返した。

家の前の道路に街頭付きの電柱があったので、その真下で受け取った物を確認した。

それは、少し古臭いビニールを両サイドからねじって包み込んだタイプのアメ玉だった。

ありがたいと思い、さっそく食べようと包みを両サイドから引っ張りほどいた。

ビニールを開封して出てきたのは、錆び付いた六角ナットだった。

私は驚いてそれを落としてしまったが、それを拾わずにさっきの丁字路の方を反射的に見た。

そこには塀から顔だけを出してこちらを見ている老婆の姿があった。

私はすぐに目の前にある家に入ろうと思ったが、このまま家に入ると老婆に私の家が知られてしまうことに気がついた。

私は家に入らず、そのまま家を通過して次の十字路で左折して、その場で少し考えた。

あの老婆はまだいるのだろうか?とか、いつまでここで待てばいいのだろう?と考えていた。

しかし、きりがないので思い切って家に帰ることにした。

再度十字路に戻り家の方に向かうが、丁字路にはもう老婆の姿はなかった。

(了)

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