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霊柩車

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麗華さんという若い女性が、両親そしておばあちゃんと一緒に住んでいました。

48:2010/03/08(月) 01:58:49.99 ID:NWcjpqfE0

おばあちゃんはもともとはとても気だてのよい人だったらしいのですが、数年前から寝たきりになり、だんだん偏屈になってしまい、介護をする母親に向かってねちねちと愚痴や嫌味をいうばかりでなく

「あんたたちは私が早く死ねばいいと思っているんだろう」などと繰り返したりしたため、愛想がつかされて本当にそう思われるようになりました。

介護は雑になり、運動も満足にさせて貰えず、食事の質も落ちたために、加速度的に身体が弱っていきました。

最後には布団から起き出すどころか、身体も動かせず口すらもきけず、ただ布団の中で息をしているだけというような状態になりました。

はたから見ていても命が長くないだろうことは明らかでした。

さて麗華さんの部屋は二階にあり、ある晩彼女が寝ていると、不意に外でクラクションの音が響きました。

麗華さんはそのまま気にせず寝ていたのですが、しばらくするとまた音がします。

何回も何回も鳴るので、時間が時間ですし、あまりの非常識さに腹を立ててカーテンをめくって外を見ました。

麗華さんはゾッとしました。

家の前に止まっていたのは大きな一台の霊きゅう車だったのです。

はたして人が乗っているのかいないのか、エンジンをかけている様子もなく、ひっそりとしています。

麗華さんは恐くなって布団を頭から被りました。

ガタガタとふるえていましたが、その後は何の音もすることなく、実に静かなものでした。

朝になって麗華さんは、両親に昨日の夜クラクションの音を聞かなかったかどうか尋ねました。

二人は知らないといいます。あれだけの音を出していて気づかないわけはありませんが、両親が嘘をついているようにも見えないし、またつく理由もないように思われました。

朝になって多少は冷静な思考を取り戻したのでしょう、麗華さんは、あれはもしかしておばあちゃんを迎えに来たのではないかという結論に至りました。

彼女にはそれ以外考えられなかったのです。

しかし、おばあちゃんは相変わらず「元気」なままでした。

翌日の夜にも霊柩車はやって来ました。

次の夜もです。麗華さんは無視しようとしたのですが、不思議なことに麗華さんが二階から車を見下ろさない限り、クラクションの音は絶対に鳴りやまないのでした。

恐怖でまんじりともしない夜が続いたため、麗華さんは次第にノイローゼ気味になっていきました。

 

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七日目のことです。

両親がある用事で親戚の家に出かけなくてはならなくなりました。

本当は麗華さんも行くのが望ましく、また本人も他人には言えない理由でそう希望したのですが、おばあちゃんがいるので誰かが必ずそばにいなくてはなりません。

麗華さんはご存じのようにノイローゼで精神状態がすぐれなかったために、両親はなかば強制的に留守番を命じつつ、二人揃って車で出ていきました。

麗華さんは恐怖を紛らわそうとして出来るだけ楽しいTV番組を見るように努めました。

おばあちゃんの部屋には恐くて近寄りもせず、食べさせなくてはいけない昼食もそのままにして放っておきました。

さて両親は夕方には帰ると言い残して行きましたが、約束の時間になっても帰って来る気配がありません。

時刻は夜九時を回り、やがて十二時が過ぎ、いつも霊きゅう車がやって来る時間が刻一刻と迫ってきても、連絡の電話一本すらないありさまなのでした。

はたして、その日もクラクションは鳴りました。

麗華さんはそのとき一階にいたのですが、間近で見るのはあまりにも嫌だったので、いつもの通りに二階の窓から外を見下ろしました。

ところがどうでしょう。

いつもはひっそりとしていた車から、何人もの黒い服を着た人達が下りてきて、門を開けて入ってくるではありませんか。

麗華さんはすっかり恐ろしくなってしまいました。そのうちに階下でチャイムの鳴る音が聞こえました。

しつこく鳴り続けています。

チャイムは軽いノックの音になり、しまいにはもの凄い勢いでドアが「ドンドンドンドンドンドン!」と叩かれ始めました。

麗華さんはもう生きた心地もしません。

ところが麗華さんの頭の中に、「もしかして玄関のドアを閉め忘れてはいないか」という不安が浮かびました。

考えれば考えるほど閉め忘れたような気がします。

麗華さんは跳び上がり、ものすごい勢いで階段をかけ下りると玄関に向かいました。

ところがドアに到達するその瞬間、玄関脇の電話機がけたたましく鳴り始めたのです。

激しくドアを叩く音は続いています。

麗華さんの足はピタリととまり動けなくなり、両耳をおさえて叫び出したくなる衝動を我慢しながら、勢いよく受話器を取りました。

「もしもし!もしもし!もしもし!」

「谷澤さんのお宅ですか」

意外なことに、やわらかい男の人の声でした。

「こちら警察です。実は落ち着いて聞いていただきたいんですが、先ほどご両親が交通事故で亡くなられたんです。あのう、娘さんですよね?もしもし、もしもし……」

麗華さんは呆然と立ちすくみました。

不思議なことにさっきまでやかましく叩かれていたドアは、何事もなかったかのようにひっそりと静まり返っていました。

麗華さんは考えました。

もしかしてあの霊きゅう車は両親を乗せに来たのでしょうか?

おばあちゃんを連れに来たのでなく?

そういえば、おばあちゃんはどうなったのだろう?

その時後ろから肩を叩かれ、麗華さんが振り返ると、動けない筈のおばあちゃんが立っていて、麗華さんに向かって笑いながらこう言いました。

「お前も乗るんだよ」

(了)

 

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