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短編 怪談

温泉で……

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母と娘が旅行に行った。

35 : あなたのうしろに名無しさんが…… 2002/05/24 14:06

娘はもうすぐ嫁ぐ身、最後の母子水入らず。

ありきたりの温泉宿で特徴は海に面した……

それだけ。

部屋に通されるとやる事がない。

駅から続く温泉街の土産物屋はだいたい覗いて来たし、夕食 までにはまだ時間があった。

そこで二人はお風呂に行く事にした。

「この先の廊下を行くとあります。今でしたらちょうど夕日がキレイですよ」

女中さんはそう言って忙しそうに戻って行った。

言われた通りに進むと一本の長い廊下に出た。

左右にはバーや土産物屋が並んでいた。

そこを通り過ぎて行くと、廊下は右に曲がっていた。

その正面には『男湯』『女湯』の暖簾が。

中から音は聞こえない。ふたりで満喫出来そうだ。

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支度を済ませ浴場に入ってみると、案の定誰もいない。

「うわー、素敵ねぇ」

娘は感嘆の声を挙げた。

正面は全面開口の窓、窓に沿って長方形の湯船。

その窓の外には夕日に光る一面の海。

二人は早速湯船に入った。

娘は湯船の右奥が仕切られているのに気付いた。

一メートル四方程の小さなもの。

手を入れてみると、飛び上がるほどの熱い湯だった。

「きっと足し湯ようなのね」

母の言葉で娘は途端に興味を失った。

風呂は全く素晴らしいモノだった。

湯加減、見晴らし、なにより二人きりの解放感。

窓と浴槽の境目にはちょうど肘を掛けるくらいの幅があった。

母は右に、娘は左に、二人並んでたわいもない話をしていた。

ゆっくりと優しい時間が過ぎて行く。

その時、母は突然悪寒を感じた。

自分の右の方から冷たいモノが流れて来るのを感じたのだ。

普通ではない、なぜかそう直感した。

あの熱い湯船の方から冷たい水が流れてくる等ありえない。

それに視線の端に何かがチラついている気がしてならない。

急に恐怖感が涌いて来た。それとなく娘の方を見てみる。

母は血の気が引く思いがした。娘の表情。これまでに見た事のない表情。

しかも視線は自分の隣を見ている。

口はなにかを言おうとパクパク動いてるが、声は出ない様子。

母は意を決して振り返って見た。

確かに誰もいなかったはず。

また、後から誰も入って来てはいないはず。

が、自分の右隣には見知らぬ女がいた。

しかも自分達と同じ姿勢で肘をついて外を見ている。

長い髪が邪魔して表情まではわからない。

しかしなにか鼻歌のようなものを呟きながら外を見ている。

「おか、あさん、その人……」

娘はようやく声を絞り出した。

「ダメ!」

母は自分にも言い聞かすように声をあげた。

母の声に娘はハッとして口を押さえた。

そう、別の客かも知れない。

そうだとしたら、あんな事を言うのはとても失礼な事だ。

けど。誰かが入って来たなら気付くはず。

ましてや自分達のすぐ近くに来たなら尚更だ。やっぱりおかしい。

そう思って母の方を見ると、さっきの女はいなくなっていた………

(了)

 

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