短編 怪談

三木大雲『蓮久寺の赤升大黒天』【ゆっくり朗読】800

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三木大雲は日本の僧侶。怪談和尚を名乗っている

1972年、京都市で三木随法(教法院住職などをつとめた。)の次男として生まれる。平安高校から立正大学仏教学部に進学。大学在学中、日蓮宗の学寮(谷中、熊谷)でも学ぶ。実家は兄が継いだため、各地を流浪した。2005年、蓮久寺の第38代住職となる。

怪談をベースに法華経を絡めた説法を行っている。

その三木住職が蓮久寺に家族とともに赴任してきてすぐのこと。

ある夜、住職は妙な夢を見ました。

寺に見知らぬ男がやって来た夢です。
大きな袋を背負い、手には金槌のようなものを持っています。
「なにか御用ですか」と聞くと、その男は
出て行こうとしました。その時、袋から
なにやら落ちました。「落としましたよ」と住職が言うと、
「ああ、それくらいならあんたにやるわ」と言って男は出て行ったそうです。

ふとこの夢から覚めたとき、住職はなんと布団の上に正座をしていたのだそうです。
これは何かある。と住職は思いました。

あの男性の格好というのは、どう考えても「大黒天」の風体にオーバーラップします。
しかし蓮久寺の本尊には大黒天はない。

赴任したばかりだから、寺の隅々までよく知っているわけではない。そこで、夫人や
子供たちを総動員し、「この寺のどこかに大黒天があるはず」と探し回ったところ、
奥から大黒様の像が出てきたのだそうです。

それはかなり古いもので、木製の大黒天は相当傷んでいました。これは修復しなければ
と住職は思いましたが、寺にはお金がない。そこで、これ以上痛まないように、
出入りしている仏壇屋さんに頼んで預かってもらうことにしました。
お金を蓄えたら改めて修復しようというつもりだったそうです。

ところが、その仏壇屋さんは3日目に大黒天を返してきました。
「この大黒さん、絶対おかしいわ」。聞けば、仏壇屋さんが大黒天を持ち帰った
途端、毎日飛ぶように仏壇が売れるというのです。
「仏壇なんちゅうもんは、そうそう毎日飛ぶようにぼんぼん売れていくものと違う。
これはおかしい。この大黒さん、おかしいわ」

仏壇屋さんは気味が悪くなったのでしょう。
さあ困ったのは住職です。そこで若手の知り合いの仏師に一時的に保管してもらうことにしました。
お金ができたら彼に修復をお願いしようと思ったのです。

1週間後。

その仏師も大黒様を返してきました。
「これ、おかしいです」

「ご存知のように、まだ私は若輩なので、そんなに仕事がありません。ところがこの大黒天を持ち帰ったとたん、毎日のように仕事が舞い込み、とてもではありませんが、対応不能になってしまいました」と言います。

仏師は木箱に大黒を入れ、乾湿制御の機材などもつけて返してきたそうです。
「寺で保管したほうがよい」と。

住職は「さて、いよいよ困った。

いったいどうしたものか」と思っていたら、

ある男性がぶらりと寺にやって来ました。
その人は豚の貯金箱を抱えていました。「こちらで、大黒さんを修復する費用に困っているとうかがったもので」喜捨してくれるというのです。

住職は御礼を述べ、一体どこでそんな話を聞いたのかと尋ねると、仏壇屋さんの筋から
小耳にはさんだと答えました。

「私もお金には大変困っているので、ご住職の気持ちがよく分かります。
今わたしに残っているお金は、これだけなんですが、つかってください」
男性が豚の貯金箱を叩き割ると、10万円以上の金額が入っていました。

これを全部寺に喜捨すると言うのです。

「お金に困っているというお話を聞いた以上、こんなには頂けません。
ほんの少し頂きますからあとは全部お持ち帰りください」
住職はそう言いましたが、男性は全部寺に

喜捨すると言ってきかない。自分にはまだ

1万2000円あるからこれで充分だと言って、

帰って行きました。

その15分後です。その男性から寺に電話が入りました。京都駅まで歩いている途中に、

スクラッチを売っているのを見て、所持していた1万2000円で全部買ったのだそうです。
その場で結果がわかってそれが大当たり!
それで住職にすぐ電話したと言うのです。

「今すぐ戻って、これも喜捨します」
「いえいえ、それは大黒さんが、あなたに

御礼の意味で授けてくださったのでしょう。

ご自身でお持ちになってください」
男性は納得しがたかったようですが、

そのまま当たったお金を持ち帰りました。

この男性、それからしばらく寺に姿を見せなかったのですが、ある日ひょっこり寺を

訪れて来ました。
その後の話がまたまた仰天です。

男性はあの日、

スクラッチで当たったお金を持って、

その足で競馬場に行ったのだそうです。本人曰く、生まれてこのかた一度も競馬を
やったことがない。適当な数字を考えて、全額を一点張りで賭けた。
なんとそれが万馬券!もともと一戸建てを所有していたので、
それを壊してビル一棟を建てなおし、

今は賃貸収入で食べていると言うのです。

実はこの男性、蓮久寺に豚の貯金箱を持って訪れたとき、自殺するつもりだったのだと告白しました。
死ぬ前にひとつくらい、何か良いことをしておきたいと思い、たまたま大黒天の
ことを小耳にはさんだので、その修復費用の多少なりとも助けになれば……

ということであの日、貯金箱を持って寺を訪れてたのだそうです。

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