心霊じゃないけど、実体験。
2013年夏の話。
友達とレンタカー借りて海に行った帰り、まだ車を返すまでには時間があったから、適当な場所に車を止めてしゃべってようってなった。
大きなメイン道路に歩道をはさんで住宅地があるような場所で、歩道脇に車を止めた。時間はたぶん夜の9時すぎくらいだったと思う。
外はもちろん真っ暗だったけど、外灯の明かりはあったから、人が歩道を歩いていたらわかるような状態。
俺は友達の助手席に座ってちょっとぼーっとしてたんだけど、住宅地の方から、腰の曲がったお婆さんが出てくるのが見えた。
結構な夜だし、こんな夜にお婆さん?と思って、俺はそのままなんとなーく、そのお婆さんを見てたんだけど、よく見ると、手にヒモを持って、白い《何か》を引きずってるんだよ。
ずるっずるっずるずるずるっ
て感じ。
え?何?何持ってるの?と思ってよーく目を凝らすと、お婆さんの持ってるのはリードで、白いのはシーズーっぽい犬だった。
で、犬は犬でも、あきらかに、様子がおかしいんだよ。
さっきも言ったように、引きずられてんの。ずるずるって。
それで、もっとよーく見てみると、その犬、首がだらーんって垂れてて、足がいろんな方向に曲がってて、完全に死んでんだよ。もちろんピクリともしない。
でも、お婆さんは犬が死んでるのに気づいてないみたいで、何でコイツ歩かないんだよ?って感じで、執拗に引きずってんの、ずるずるずるずる。
そんでそのおばあさん、何すんのかなー?って見てたら、犬の死骸を引きずりながら大きな道路の端まで出て、手を上げ出したんだ。
ヒッチハイクかタクシーか……とにかく車に乗りたいらしい。
犬の具合が悪いことだけは理解して、病院に連れて行くつもりなのか?
にしても、こんな夜にあいてる動物病院があるのか?
それに、すでに死んでいるのは明らか。
真意は分からないが、何台かのタクシーに無視されながらも、ようやく一台のタクシーがお婆さんの前に止まった。
ほんとに、こんな不気味なばあさんなのに、よく止まったなぁと思った。
そして、そのお婆さんは、ずるっずるずるって犬を引きずりながらタクシーに乗り込んで、そのままどこかに去って行った。
だらんとした首が、タクシーに乗りこむ際に引っ張りあげられて、今にもちぎれそうな感じだったのがものすごく不気味だった。
タクシーって犬乗せてよかったっけ?しかも、死んでるし。
ほんとによく乗せたよ、あのタクシー。
とにかくそのままそのタクシーは去って行って、結局そのばあさんがどうなったかわからない。
オチが微妙だが、本当に体験した話で、人生の中で一番不気味な体験だった。
(了)
山の不可思議事件簿/上村信太郎