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短編 心霊

黒焦げのおっさん

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周りの人々の反応が怖かった、今から十年近く前の話。

当時バカ学生街道まっしぐらだった僕は、ろくに講義も受けずにバイトとスロットばっかりしていた。

おかげで二年生を二回やり、四年生になっても月曜から土曜までみっしり講義を受けなければならず、就職活動もできない状態に陥った。

僕は二十四時間営業の飲食店の深夜スタッフとして働いていた。

二十二時から朝の九時まで働き、朝のパチ屋の開店に並び、モーニングを回収してから帰って寝る。

起きてからパチ屋に行き、軽く打ちながらストックの貯まり具合を確認してからバイトというローテーションだ。

その働いていた飲食店での話。

そこの店は、かつて火災により死者が出たことがある。

駅前のマンションの一階部分が店舗なのだが、火災以降はテナントとして入った店がすぐに撤退してしまう。

当時のオーナーがマンションごと手放し、それを飲食店を経営する会社が丸ごと買い取った。

一階部分で始めた店が、僕の働く店だった。

大学生活が始まってから一週間ほどで僕はそこで働き始めた。

働き始めてから一ヶ月後、僕は深夜スタッフのチーフになった。

当時働いていた深夜スタッフの先輩達が、皆一斉に辞めたのだった。

僕について仕事を教えてくれた先輩に事情を聞いた。

「だってさぁ…あの店ヤバイよ。出るんだもん。お前も見たっしょ?働けねーって」

どうやら、昔火事で亡くなったという人が事務所に「出る」らしい。

しかし僕はそんなもん見てないし、そういった類のものも見たことがなかったので信じがたかった。

先輩達は毎日のように出るソレにうんざりしていた。

着替えていれば出るし、休憩に入れば出るし、食材を取りに行けば出る。

僕が入った時点でまだ店はオープン二ヶ月ほどだったのだが、その二ヶ月で先輩達は皆店に行くのが嫌になった。

さすがにばっくれるのは申し訳ないし、新たにバイトを募集して、入ったヤツに全部教えて皆で逃げよう。

相談の結果、そう決まった。とんでもない人達だ。

そして僕が入ったのだった。

「何が出るんですか…?」

恐る恐る僕は聞いた。

「お前マジで見てねーの?逆におかしいよそれ。…真っ黒に焼け焦げたオッサンが出るんだよ」

先輩達は皆焦げたオッサンを見ているらしい。

そのオッサンがいることを当然の事実として捉えている。

見えない僕のことを変人扱いしている。

それを聞いて僕も逃げることにした。

まだ見てないけど、そんなもん見たくない。

しかし、辞めたいと申し出た僕に対してオーナーは必死で引き止めた。

オーナーもそのオッサンを見たらしく、「見えない」僕のことをとても貴重な存在に思ったらしい。

時給を三倍にするから働いてくれと言ってきた。

当時の僕の時給は1,000円。

マックのバイトが680円の時代で、飲食店の時給1,000円は貧乏な田舎モノの僕にとって魅力的だった。

それが三倍になる。時給3,000円だ。

休憩を差し引いて一日九時間働くと一日で2万7千円。

毎日やれば月三十日として81万円。

僕はバイトを続けることにした。

昼間の人達は誰もそのオッサンを見ていないらしい。

深夜の営業に関して全権を渡された僕は、バイトを雇うことにした。

一人では何もできない。

時給を1,200円に上げて募集をかけたところ、すぐに応募があった。

しかし、雇った人は皆すぐに辞めていく。

理由は皆「怖いから」とのことだった。

事務所で面談をしていた人が僕の顔の少し横を見て固まったこともあった。

どうやら見えたらしい。

一向に僕は何も見ない。

なぜ僕には見えないのかはわからない。

逆に見てみたいとも思ったが、やはり見えたら怖いと感じるのだろうか。

僕が鈍感なのだろうか。

それとも所謂守護霊というものに守られているのだろうか。

わからない。

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根気良く募集を続け、四人が残った。

ワケあり主婦の中島さん。

フリーターの坂上さん。

人生の一発逆転を狙う小林さん。

ボクシングのライセンスを持つ堀口さんの四人だ。

どうやら僕の店は地元では「出る」「見えないヤツはおかしいってくらいに出る」と有名になっていたらしい。

出るのであれば是非とも見たい。

見える上にお金ももらえるなんて素敵だ。

そういう魂胆のもとに応募してきた人々だった。

全員が「見える人」らしく、そういったものに慣れていたように思う。

彼らはイカれていた。

事務所の隅に向かって「よっ」と手を挙げて挨拶をする小林さん。

ロッカーの前で空間に質問をしている中島さん。

「煙かけたら消えちゃったよ~」とは小林さんの言だ。

堀口さんだけは少し恐怖を感じるらしく、

でも「もう人間相手じゃ恐怖って感じないんすよね。久々っすよこの感じ」と言っていた。

結局僕はその仕事を六年間続けた。

その間に何人かバイト希望者が来たが、結局はすぐに辞めていった。

僕を含めたその五人で六年間。

その六年間で、僕は一度だけオッサンを見た。

パソコンに向かって売り上げを打ち込んでいたとき、ディスプレイの片隅に人の顔が見えた。

ん?と思って振り返ると、一瞬だけそのオッサンが見えたのだ。

黒い服を着て、メガネをかけて、坊主頭の小太りなオッサン。

そしてふっと消えた。

それが僕の人生における、最初の心霊体験だ。

五〇代くらいだろうか。

……焦げてはいない。

トイレと間違えてたまに事務所にお客さんが入ってくるような造りの店だったのだが、

またお客さんが紛れ込んだのかな?というくらいに普通の人間のような存在感だった。

中島さんに「そのオッサンてメガネかけてる?」と聞くと

「あ~、そう言えばかけてるかも~。焦げ焦げでよくわかんないんだけど、多分かけてるね」と言っていた。

こんな僕だから霊体験はほとんどないのだが、このバイトのメンバーとつるんでいるとやたらと不思議なことが多かった。

365: バイト ◆B81hPRrN9Q :2011/07/07(木) 01:10:25.47 ID:RpwkqoiF0

(了)

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