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短編

黒い影

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2007年の夏、夕方5時ぐらい。ある団地に宅配のバイトでピザを届けに行った。

バイクを泊め、ドアの前に行くと、何故かピンク色の汚れた洗面器があって、その中にお金が置いてあった。

少しおかしいとは思いつつ、チャイムを鳴らしたが、全然出てこない。

お金がある以上、ピザを手渡さない訳にも行かないので、困ってしまった。

仕方なくゆっくりドアノブを回すと、ドアが開いてたんだ。

「すみません、ピザお届け……」

ここまで言って、異変に気付いた。

部屋の中が見えない程、黒い煙で充満していたんだ。

一瞬「火事か!?」と思ったが、そういった類いのコゲ臭い匂いはしなかったし(何というか、海っぽい匂いがした)団地の下では、さっきバイクを止めた場所にいた子供たちが遊ぶ声もする。

「すいません、お届けものです」

もう一度言った。

すると、すぐ近くの下駄箱が、ドン!と派手な音を立てて倒れた。

ビクっとなったのもつかの間、黒いモヤの中にゆらめく影を見たんだ。

体の片方側だけに、腕が三つあった……

もう訳が分からなくて、怖くて、それでも必死に

「ありがとうございましたー」

とだけ言って、洗面器の中のお金をひっ掴んで逃げるように階段を駆け降りた。

偶然なのか何なのか、なぜか引き返した時には、遊んでいたはずの子供たちも一人残らずいなくなっていた。

バイクにまたがり、発進する時、今行った部屋の窓を見上げた。

部屋自体には、特に異常は無いようだったが……(というか、カーテンが閉まっていて中は見えなかった)

その部屋の窓がある地点の壁に、黒い液体が3本、下に向かって線状に垂れてて、それは下の階の窓のすぐ近くまで来ていた。

店に戻ってこの話をしても、誰も信じてくれなかった。

作り話上手いなあ、と笑われた。

……もし、ああいう先天的な障害を持った人だったなら、申し訳ない事したな、とは思う。

けど、不気味すぎて、あの時の行動をとがめられてもどうしようもない……

そのバイトは、それから少ししてやめた。

(了)

 

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