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勾配標(こうばいひょう)

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線路の側には様々な標識が設置してある。

どれ一つとして列車の運行に不要なものは存在しない。

その標識に纏わる、ちょっと奇妙なお話。

「おい、○○の辺りで標識が抜けてるらしいぞ。ちょっと、見てきてくれ」

突然助役にそう言われ、たまたま保線区に居た叔父達が現場に行く事になった。

現場に行ってみると、確かに線路の傾き具合を示す勾配標識が根元から引き抜かれていた。

「おお、本当に抜けてるぞ。こんな山奥で……、タチの悪い悪戯だな」

先を尖らせた木製の杭を地中に少々深めに打ち込み、

そこに線路の傾斜度を示す板切れを釘で打ち付けただけの簡単な標識だから、

誰かが悪戯半分に引き抜く事も不可能では無い。

しかし、自分達でさえ車を置ける場所から三十分近く線路脇を歩いてようやく辿り着けるような場所まで来て、勾配標識だけを狙って引き抜くとは、余程の物好きだな……

誰もが単純にそう考え、一先ず、念の為に持参していたハンマーで標識を仮に設置し直し、

次の保線作業でこの場所に来た時にキッチリと設置し直す事にして、その日は引き上げた。

その次の日、叔父は公休日だったそうだ。

さらに翌日出勤してみると、いきなり助役に呼び出された。

「一昨日直してもらった標識な、昨日の昼にはもう抜けてたぞ。昨日も伊藤君達が行って立て直して来てる。疑う訳じゃ無いが……、ちゃんと立て直したな?」

「馬鹿な事を言わんで下さい、ちゃんと立て直しましたよ!普通列車が通過してますし、何なら運転士に作業してたかどうか確かめてみては如何です!?」

少々ムッと来た叔父が反論している最中に、電話が鳴った。

受話器を置いた助役は眉間に皺を寄せていた。

「問題の標識な、また抜けたらしい……どうなっとるんだ?」

たまたまその日は、問題の現場付近での保線作業が予定されていた。

早速叔父達は現場に向かい、今度こそ絶対に抜けませんようにと祈りながら勾配標識を立て直し、保線作業に入った。

やがて休憩時間になり、全員で線路脇を離れて三十分程休憩して現場に戻ってみると……

……抜けてる

わずか三十分の間に、また誰かが標識を引き抜いた……筈が無い。

確かに誰も標識を見ていなかったのは事実だが、音も立てずに近寄って来る事が出来たとしても、音も立てずに標識を抜くのは至難の業だ。

余りにも不気味な出来事に、誰もが言葉を失った。

翌日、標識の底に板を打ち付けて、ちょっとやそっと引っ張った程度では絶対に抜けない標識支柱を作成し、

夜間に線路脇を掘り返してしっかりと立ててからは、その勾配標識が抜ける事は無くなった。

後日談

現場で立てたばかりの標識が抜けたのを見た時には、さすがに寒気がしたそうです。

叔父が、保線区に戻って落ち着いてみると、むしょうに腹が立ってきて、

「よし、絶対に抜けない標識を立ててやろうじゃねーか!」

とみんなで意気投合、新しい標識はその日のうちに作ってしまったそうです。

(了)

 

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