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検査室の白衣

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昔、働いていた工場には検査室という六畳ほどの小さな部屋があった。

そこに入室する時は白衣に着替えなければいけなかった。

白衣は廊下にあるロッカーに2、3着掛けてあった。

新入社員の時、検査室で一人作業をしている佐藤さんに用事があり、白衣に着替えて中に入った。

用事を終え「では、失礼します」と頭を下げて帰ろうとした時、佐藤さんから

「白衣、ちゃんと掛けといてね」と言われた。

「はい、わかりました」と返事をしてドアの方に体を向けた瞬間、とても驚いた。

床に白衣が大の字に広げて置いてあった。

小さい部屋の中、二人きり……

誰かが入って来て気付かないはずのない距離。

何だこれ……いつの間に……と絶句していると佐藤さんが

「あら?聞いてないの?」と驚いている

「これ、たまにあるから」

この現象は、佐藤さんが入社した十年前からすでに発生していたそうだ。

初めは、原因を究明しようと休日出勤し一日中見張ったこともあった。

だが、ほんの少し目を離した隙に、白衣が置かれていた。

他の社員も慣れてしまって「またかよ。面倒くせえなあ」なんて人もいるくらい。

白衣が置かれる事以外に特に被害もないから、もう、そんなもんなんだって事になったらしい。

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そんな中、あの東日本大震災が起こった。

会社が海のすぐ側だったがすぐに避難した為、うちの会社に犠牲者はいなかった。

震災後、数日経った頃だった。

同僚が家に尋ねてきて工場を見に行かないかと誘ってきた。

はっきり言って、仕事もなく電気もなくやることもなかった自分は同僚と工場を見に行くことにした。

工場だった場所はもう瓦礫の山で、自然の力で積み上げられた車やどこかの家のアルバムや卒業証書やおもちゃやら本やら、色々なものを見つけては二人で嘆きあった。

買ったばっかだった新車は屋根の上にきれいに乗ってあった。

同僚と「ここは第1工場があったあたり」「ここは会議室だ」なんて言いながら瓦礫の山を歩いていると、遠くのほうで白くキラキラ光るものが見えた。

『あれはなんだろう。車の屋根とか?鏡じゃない?』

などと話しながら近づくと、それは大の字に広げられた白衣だった。

津波で流されたはずにも関わらず、白衣には全く汚れがなくたった今誰かが置いたかのように瓦礫の上に不自然に置いてあった。

同僚と無言で見詰め合ったあと「ああ、ここ検査室」と震災後初めて爆笑した。

現在、工場は更地になっており、あの白衣がどうなっているのかは知らない……

(了)

 

史上最強の都市伝説極 [ 並木伸一郎 ]

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