短編 家系にまつわる怖い話

風を呼ぶ家系#947

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風を呼ぶ力

家の女系は風を呼べる。

自分でも胡散臭い話だと思うので、今まで一度も誰にも話したことはない。

蒸し暑かった空気の入れ替えをしたいときに、風を呼んだりする程度だ。

小さい頃はよく使えたが、今ではまったくなんの力もない。

と言うのも、この力は母から娘に伝わるものらしく、祖母はそれこそ自由自在と言った感じだったが、祖母の子は息子ばかり。

祖母の姉妹たちも、女の子には恵まれなかった。

祖母がこの話をしてくれたときは、お伽話のように聞き入ったものですが、その祖母も今年他界してしまいました。

祖母の「佐知子ちゃんだけは幸せになってほしい」という言葉が忘れられません。

風を呼ぶ力は昔からあったようで、祖母の家系は江戸や平安の頃から重宝されていたようです。

ただ、風が吹いたからといって、作物が実ったり、富が築かれたりするわけではないので、崇められるようなことはなかったそうです。

また、力が強ければ強いほど、美くしく、時の権力者の側女として、不自由のない暮らしをしていた。

各言う祖母も若い頃の写真も、晩年も大変きれいな人で、(身内びいきではなく)気立てもやさしく求婚者が絶えなかったそうです。

祖母の葬儀の時に聞きましたが、求婚者には将校や華族などもいたそうです。

ただ、祖母には思う人(銀行員だった祖父)がいて、すべて断ってしまったそうです。

当時のことですから、恋愛結婚なんてとんでもなく、(祖母の家は大地主だったからなおさら)親には、反対もされたのでしょうが、たぶん不憫に思われたのでしょう、結婚は許されました。

この力には黒い一面があるのです。

祖母の家系は皆、不可解な亡くなりかたをしていたそうです。

ある日から衰弱しはじめ、一月を待たずに元の面影を残さずやつれ果ててなくなるのです。

祖母もそうでした。

祖母は町医者にかかっていたのに、ガンで亡くなりました。

臓器の外側にガンができ、通常の15倍もの速さで進行していき、なすすべもなかった……

医者も首を傾げていました。

こっちも、死なせてやりたくなるほど、苦しんでいました。

ただ、祖母は苦しいとか、そんなことは一言も言いませんでした。

ただ、あまりにも苦しそうな最後でした。

祖母は「みんなそんな風に死んでいくんだ」ということも私に話していました。

だから、その理由がガンだと言うことも、通常では信じられないくらい進行が速いということも、そんなことより、ずっとずっと、変わり果てた祖母の姿は、私には恐ろしかった。

そして、祖母の葬儀の日は、やってきました。

小春日和、気持ちいい風が不意に強く吹いて、祖母の骨を舞上げました。

あぁ送っているんだと思いました。

よくわからないけど、それは確信できました。

(了)

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