中編 集落・田舎の怖い話

川向こうの奇妙な神社~海外留学生の奇妙な体験【ゆっくり朗読】2400

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あたしの家にはスーザン(仮名)という、サンディエゴからの留学生が滞在していました。

2007/12/29(土) 11:52:57 ID:GQE8fPqI0

母が婚前に英語の教師をした影響か、海外の留学生を受け入れるのが好きで、あたしが高校を卒業したあたりから、隔年で自宅に留学生をホームスティさせていました。

スーザンは、片言ながらも日本語でコミュニケーションをとれました。

あたしが居る前では、必ず日本語を話します。

単語が出てこなくて、意思の疎通が難しい話題になったときに、あたしが辞書片手に英語を使うと、物凄い剣幕で怒ります。

「ベンキョニナラナイ!」と。

なので、あたしもスーザンの前では日本語しか話しません。

あたしと同年代ということもあり、恋愛の話などを気楽に出来る良い友達でした。

ゴールデンウィークの休日。

スーザンと一緒にドライブで少し田舎の方まで、一泊二日で出かけることになりました。

スーザンは、日本の自然がとても好きでした。

我が家は割りと都市部のゴミゴミした場所にあり、毎日混みあう電車で通学するスーザンに、たまに美味しい空気を吸わせてあげようと、あたしが企画したのです。

二つ隣の県にあるお城を、見に行くのが目的のドライブでした。

あたしは運転に不慣れですが、カーナビのおかげで道に迷うことも無く、天気の良さのおかげで心地よい風を感じながら、畑が広がる田舎の県道を走っていました。

カーナビが

『100メートル先、左折です』

というので、小さな交差点であたしは左にウィンカーをあげ、ブレーキを踏みました。

道の先をみると大きな交差点があり、カーナビが曲がれと指示した場所は、その大きな交差点だったことに気づきました。

後ろからぴったり車が付いてきているので、減速してウィンカーを上げた以上、曲がらないわけにもいかず、あたしは仕方なく、手前の交差点を左折しました。

左折した先の道は、一本道の農道のような場所でした。

とても道幅が狭く、父から借りたワンボックスの大きさのために、Uターンも難しく、横道がないために折り返すことも出来ないので、しばらく道なりに進みました。

結構長いこと真っ直ぐ進まなければならず、仕方なく進んでいくと、いつの間にか住宅街になっていました。

木造の古い家が両側に立ち並んでいます。

住宅街というよりも、集落のような感じです。

どの家も駐車スペースがなく、なかなか折り返すチャンスがありません。

前方には山があり、折り返すことができないまま、突き当りまで進んでいきました。

突き当りは、20台ほど駐車できそうな駐車場になっていました。

……そこは神社の駐車場でした。

駐車場には、白地に黒で『学業成就』『長寿祈願』と書かれたのぼりが、何本も立ち並んでいます。

スーザンに「ナニガカイテアルノ?」と聞かれたので、あたしは学業成就の意味を教えました。

日本文化なら何にでも興味を示すスーザンははしゃぎ出し「神社の中を見たい」というので一旦ここで車を降りて、神社の中を見て回ることにしました。

あたしも多くの神社を見たわけではないですが、外からの眺めは神社としては珍しい感じがしました。

境内はお城のような高い白壁の塀に囲まれ全く中が見えません。

塀の切れ目に鳥居が建っており、そこをくぐって中へ入りました。

……中を見て驚きました。

ビックリするくらいに綺麗なんです。そしてとっても広い。

手入れが行き届いた植木たちに、まっ平らな砂の地面。

まるで京都の観光地のようです。

境内には涼しげに小川が流れています。

小川の向こう側は、木が鬱蒼と茂る山があります。

境内にホウキを持った若い神主さんらしき人を発見しました。

「年末や受験前シーズンならまだしも、この時期に若い女の人が来るなんて珍しいねぇ…… それ以上に海外の方が来るなんて、初めてかもしれない」

と話しかけられました。

その男性に学業成就のお守りを売ってもらい、スーザンにプレゼントしました。

「ごゆっくり休んでってください」

といわれたので、慣れない長時間の運転で疲れたあたしは、自販機で買ったジュースを片手に、境内のベンチに座って少し休んでいくことにしました。

連休中なのにあたし達以外に参拝客はいないようで、とても静かです。

自然と日本の伝統建築物が大好きなスーザンは、興奮気味です。

そのとき、スーザンが小川の先を指をさして「アレワナニ?」と言いました。

……小川の向こう側には鳥居がありました。

神社の中にまた鳥居があるなんて不思議だな、と思いながらその先を良く見ると、山の中へ入っていく石段のようなものが見えました。

スーザンが興味深々なので、間近で見ようと一緒に鳥居へ近づいていくと、その鳥居が女性の腰くらいの高さの小さなものであることがわかりました。

スーザンは

「ソノ チィサナトリイヲ クグリタイ」と言い出しました。

しかし、小川沿いに境内を端まで歩いて探しても、向こう岸に渡ることができそうな橋が全く見当たらないんです。

小川は幅は3メートルほどで、くるぶしあたりまでの深さしかなく、暑いくらいの天気なので、靴と靴下を脱いで裾をあげて、裸足で小川に入って向こう岸に渡ることにしました。

向こう岸に渡り靴を履きなおすと、スーザンはよつん這いになって、その小さな鳥居ををくぐりました。

あたしもジーンズを汚しながら、よつん這いつんばいになって鳥居をくぐり、スーザンと顔をあわせて笑いました。

鳥居の奥の山へ登っていく石段を見上げると、あたしは急に、その先に何があるのか気になりだしました。

スーザンも同じ思いだったらしく、あたし達は何も言わずに石段を登り始めました。

石段はすぐに終わり、普通の山道になりました。

木で日光がさえぎられ、とても涼しくて良い気分です。

さらに上へ上へと足を進めていくと、また小さな鳥居があり、再び石段が始まりました。

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鳥居の横には石碑が建っており、神社の名前が書いてありました。

あたし達が最初に入った大きな神社とは全く違う名前です。

地面が濡れていて、さすがによつん這いでくぐるのは気がひけたので、鳥居の外側を回り、更に石段を少し登ると人影が見えました。

……二人組みの子供です。

近づいていくと、二人の子供たちが、小さな声で何か歌っているのが解りました。

それと同時に、その歌声から、その二人組みが子供ではなく、小さな老婆であることがわかりました。

あたしたちに気づいているはずなのに、彼女たちは歌をやめる気配は全くありません。

歌は聴きなれない言葉がちりばめられていて

『どうかあと十0年生かして欲しい』といった内容で

『ありがたき』という単語が何度も出てくる、不思議なものでした。

石段がある坂の左手に小さなお堂があり、老婆たちはそこへ向かって手を合わせています。

老婆達はこの暑さの中、毛糸で編まれた厚手のカーディガンを着ています。

老婆たちの背中越しに、あたしもそのお堂に向かって手を合わせました。

あたしの動きにつられて、スーザンも手を合わせます。

お堂には、茄子やピーマン、キャベツといった野菜が大量にお供えされています。

その上の段には、大豆のような形で、表面がガタガタの球体がありました。

大きさは、バスケットボールよりも二回り小さいくらい。

どうやら石でできているようで、光沢感があり、木の間から差し込む光に反射しています。

歌が終わると老婆たちは、あたし達のほうを振り向きました。

老婆達の顔をみて、一瞬ギョッとしました。

彼女達の顔が真っ赤だったんです。朱色と言えば伝わりやすいでしょうか。

老婆たちは、不思議な化粧をしていました。

眉間のあたりから眉の上を経由してあごを通って、顔全体を一周するように、口紅のようなものを塗っていたのです。

最初は血か何かだと思い、かなり驚きました。

驚きのあまり、「こんにちはー」と声を上ずらせて挨拶すると、老婆達はさっきの神主と同じように、聞き慣れないイントネーションで話しかけてきます。

最初に年齢を聞かれました。老婆たちの言葉は、今となっては細かく思い出せません。

何歳だ?という問いに「二十三歳です」と答えると

まだ若いので、これ以上石段を登るのは、バツをほうずる、と言われました。

細かい言葉までは覚えてないのですが、『バツをほうずる』というフレーズだけ頭に残っています。

老婆にそう言われ石段の上へ目をやると、お堂がある場所からさらに長い距離、真っ直ぐ石段が続いており、突き当りには大きな社があります。

社の前に、人影が見えますが、木が鬱蒼としてて薄暗くて良く見えません。

その時、スーザンが老婆達の前で、初めて言葉を発しました。

お堂の中を指差し、そこに祀られている、大豆のようなゴツゴツとした石のような物体を指をさしながら、

「コレワナンデスカ?」と訊いたのです。

すると老婆達が「ギエーーー!!」という大きな悲鳴を上げました。

「日本人じゃない!」

「バツをほうず!」

「今すぐ降りろ!」

「降りろ! 降りろ!」

とまくし立て始めました。

スーザンは目が青いものの、黒髪で体格も小さいので、老婆達はスーザンがアメリカ人であることに、彼女が片言の日本語を発するまで気づかなかったのでしょう。

上の大きな社へ目をやると、老婆達の悲鳴を聞いたからか先ほど見えた人影がこちらへ向かって降りてくるのが見えました。

動きは急いでいるようですが足がわるいのか、ソロリソロリと降りてきます。

あたしは怖くなりスーザンの手を引いて足早に石段を駆け下りました。

その時のスーザンの手は、酷く汗ばんでいて冷たかった。

一度も振り返らず、山に入る時によつん這いになってくぐった、小さな鳥居のところまで降りてきました。

二人とも急いで靴を脱ぎ、小川を渡リはじめた時、異変に気づきました。

先ほどはくるぶし程までしかなかった小川の深さが膝に達するくらいまで深くなっていたのです。

なんとか反対岸まで渡り終え後ろを振り返ると、スーザンは小川の真ん中で立ったまま動かなくなっています。

「スーザン? 大丈夫?」

と問いかけると、決してあたしの前で英語を喋らないスーザンが英語で絶叫し始めました。

英語が苦手なあたしは、全くなにを言っているのか聴き取れません。

絶叫が途切れ口をパクパクさせた後、スーザンはそのまま川の中に倒れこみました。

その時、あたしは後ろに気配を感じました。

後ろには、お守りを売ってくれた若い神主さんらしき男性が立っていました。

彼は服が濡れるのもいとわず川に入りスーザンを支えるようにして、こちらの岸まで連れてきてくれました。

スーザンは体に力が全く入らないような状態になっており呼吸も荒くなっていました。

神主さんらしき男性と二人でスーザンを抱えるようにして車まで運びました。

男性は、あたし達の車が駐車場にあるのに、あたし達の姿が見えないことを心配して、あたりを探していたそうです。

「まさか、あの深い川に入で水浴びしてるなんて思わなかった」と言われ

「最初はくるぶしくらいの深さしかなかった」と答えると、男性は酷く驚いていました。

さらに、あたし達が石段を登った先で見たものについて話すと、男性の顔が一気に青くなりました。

そして、あたし達が石段の上へ行ったことについて怒りました。

老婆達について深く聞こうとすると

「いるはずがない」「入れないように橋を撤去した」と言い、男性は更に顔を青くして震えだしました。

続けて彼は「早く帰ったほうがいい。今日のことは忘れたほうがいい」と言いました。

あたし達が体験したことについて、もっと詳しく聞きたかったのですが、男性の尋常ではない対応を眼にして、それ以上質問を続けることはできませんでした。

スーザンの具合が悪いので、あたしは車を発進させ、神社の駐車場を出たのは、お昼を少し過ぎたあたりでした。

住宅街を抜けて、県道へ出て、そのまま自宅へ引き返しました。

スーザンはその後、風邪を引き高熱を出しました。

数日は食べ物も喉を通らず、なんどか病院で点滴を受けていました。

スーザンは八月に帰国してからも健在で、未だにメールの交換を続けています。

ただスーザンは、あの日のことを良く覚えていないようです。

『ジンジャノカワデ、オボレタノワ、オボエテイル……』

それが彼女の唯一の記憶のようです。

あたし一人が白昼夢をみたのでしょうか……

あの老婆達は何者だったのか?

小川の向こう側の小さな神社の正体は何だったのか?

気になるものの、あそこへもう一度足を運ぶ勇気がありません。

今でもたまに、石段を登る夢を見ることがあります。

(了)

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