短編 ほんのり怖い話

井戸の上に建てられた家【ゆっくり朗読】4800

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鎌倉で改修工事したときの体験談。

382:本当にあった怖い名無し:2008/12/17(水) 18:40:34 ID: 9Xs97Vpl0

俺が携わったのは、築100年以上で、何世代にもわたって改修工事をしてきたもの。

古く増改築を繰り返しているので、図面も残っていないし、形は不自然。

まずは、図面を起こすところから始める。

図面にしてはじめて気が付いた。

家の中心部に不自然なデッドスペース。

家の人も把握していない。

よく階段の下に、何もない空間などがあるケースはあるが、中心部の何も絡みがないスペースが、収納としても使われていないのは不自然だった。

施主との相談の上、その空間も利用して部屋を広げる話となった。

途中で改修した際に引き込んだ上水管も鉄管であり、腐食が酷いと思われたために、床下にもぐって配管経路をチェックした。

床下で図面と見比べ、俺は混乱した。

在来工法の風呂に、基礎が不自然な位置にある。

丁度部屋の中心地に。

俺は首をかしげて、確認のために近づいていった。

目の前に来たときに、基礎の上部がないことに気が付いた。

風呂の場合、上部に空間は開いていない。

床板と基礎の間には、100mm位のスキマが開いていた。

増改築を繰り返していると、前の建物の名残が床下や壁の中に残るため、俺は気にせず、その日の現地調査を終わらせた。

数日後、契約に至り、さらに日時が開いて着工日になった。

解体工事がはじまり、壁や床が撤去されていく。

やがて例の空間の解体に手をつける。

まず壁を壊しにかかった。

壁にハンマーを当て、モルタルを壊し、木部を蹴り壊す。

職人たちは「アタァッ!」と、北斗の拳ごっこをしながら壊す。

いつもの風景だった。

木部が壊れ内部が見えた時、空気が凍った。

誰もが口を開かなくなり、何も指示はなかったが、いっせいに工具を置き休憩にはいってしまった。

みんな重苦しい顔をして、うつむいたまま出て行く。

丁度その時に別の場所を担当していた俺は、三時の休憩には早い為おかしいと思い、例の空間を覗き込んでみた。

投光機で中を照らすと、正面の壁に般若の面があり、壁は一面御札で埋め尽くされていた。

施主のいたずらじゃないかと疑いたくなるほどに、演出されたような部屋だった。

般若の面の下、床の上には箱が一つ置いてあった。

演出ではできない長い年月で溜まった埃が、古くからそこに安置されていたものと想像させた。

俺は手に触れることなく、外の職人たちに話を聞きにいった。

職人たちがいうには、「壊したら出てきた。気味が悪くこれ以上はしたくない」との話だった。

それ以上はなにもわからない。当然といえば当然だが。

施工管理(現場監督。スケジュール管理などする)をしていた俺としては、竣工日が延びると経費が増えてしまう為に困り果て、施主に携帯で連絡した。

施主は工事中、近くに住む親戚のうちに身を寄せていた。

施主自身も部屋の存在すら知らなかった為に、非常に驚いていた。

本家のおじいさんに電話して聞いていたが、依然としてなにも判明しなかった。

職人が手をつけないので、俺が一人でそこを解体することになった。

壁を壊し中には入れるようにして、手を合わせてから中にはいった。

まずは箱を取り出し、外に出る。

箱は埃をぬぐうと、御札で厳重に封印してあり、黒い漆塗りの重厚な物だった。

施主に中身を確認してもらう。

「埋蔵金だったりね」などと冗談を言うのだが、明らかにまがまがしいような箱であり、誰も笑っていなかった。

箱を開けると、中には雛人形のような烏帽子をかぶった人形が一体と、紙で巻かれた髪の毛の束。

髪の毛の主は、まともな死に方をしていないだろう事は想像に安い。

その頃から俺は、ものすごい後悔をしていた。

なんでこんな仕事をうけてしまったのだろう?

般若の面を慎重にはずし、残りの壁を撤去。

床の解体に取り掛かる。

床をバールではずして、床下を覗き込む。

床下にはいった時に見た、風呂の基礎の様なものの正体は井戸だった。

古井戸がぽっかりと穴を開けている。井戸はかれていて、水はなかった。

リングに出てくるような、人が二人はいって作業できるような大きなものではなく、人が一人はいってしゃがむと、ほとんど動けなくなるような大きさだった。

施主に状況を説明すると、井戸の中を調査して欲しいとの事だった。

俺は色々と理由を付け断り続けた。

俺も施主も、おそらく共通した懸念があった。

白骨死体でもでてくるのではないか?

施主は供養しないと気味が悪いから、これを機会に供養したい。

冗談じゃない。

俺はリフォーム業者であり、死体は守備範囲外だ。

やるやらないの押し問答の末、竣工日の延期と、それにかかわる経費の負担、さらに200万円上乗せして払うと施主が言う。

その話を直接所長にされ、社命で俺が井戸の中にはいり、30cmほど掘る事になった。

結論からいうと、何も出てこなかった。

井戸の底は土の堆積はほとんどなく、やわらかい土を撤去すると、大きな石がごろごろしている感じだった。

死体の上から石を投げ入れた可能性など色々と考えて、石の撤去はしたくなかった。

「全ての石を撤去するのは無理です」と、施主には納得してもらった。

その後、工事は何も問題が起きずに竣工日を迎え、いやな思いはしたが、おいしい案件だったとして、笑い話でおわってしまった。

一年位が過ぎ、その現場の付近を車で通る機会があった。

900万もかけたリフォーム後のその家は、完全に解体撤去され更地になり、塀と、そこにある表札だけが残されていた……

(了)

 

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