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短編 怪談

ヒッチハイク爺さん

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仕事で滋賀県で働いてるんだけど、一昨年の冬初めて滋賀県に来た時にあった不思議な話。

天気予報で『今週末に初雪が降るでしょう』って放送してて、実際、週末夕方頃から雪が降り出した。

いつも通り23時頃に退社してコンビニに寄って晩飯を買い込んで店を出たところ、いきなり声をかけられた。

「京都まで乗せてってもらえませんか?」

コンビニの軒先を見ると六十代ぐらいの品のいいお爺さんがいて、こちらをニコニコと見ている。

ベレー帽にマフラー、ロングコートで小さなセカンドバッグを持った小柄なお爺さんだった。

「近所に住んでるんで、京都にまでは行かないんですよ」

自分の車が京都ナンバーだったので京都に行くのかと思い声をかけたらしいのだが、ここから京都へは一時間以上かかる。

「福井県から歩いてきたんだけど、雪がひどくなってきちゃって困ってたんだ……」

自分の前の勤務地が福井県で、福井の人に親切にしてもらってた事もあって不憫に思い、ここから少し先にある駅までならと思い、車に乗せてあげる事にした。

以下は、やや、うろ覚えではあるが……お爺さんが車の中で俺に語った事。

お爺さんは静岡県清水市の出身で、福井市に住むテキヤの元締めの男にお金を二千万貸している。

そのお金を取り立てに来たのだが、男はおらずお金を回収し損ねた。

その男の家の近くに宿をとって張ってみたが、戻る気配がない。

宿泊でお金を使ってしまって手持ちのお金は無いが、清水市の事務所には二億円ある。

もう一人、広島に大金を貸している男がいるので、そちらの男からは何としてでも回収したい。

だから、少しでも早く広島方向に移動したい……

俺はお爺さんのそんな話を聞きながら、『ひょっとしてボケ老人かな……?』なんて感じてた。

初雪とはいえ、福井・滋賀県境は豪雪地帯でお爺さんの履いてる革靴では歩いて来るには無理がある。しかも、傘を持ってないようだし……

お爺さんの話を話半分で聞きながら、駅に向かった。

車内には床屋の様なキツめの加齢臭が漂っていた。

お爺さんを駅で降ろし自分は帰宅したんだが、始発まで時間は長いし、

『またヒッチハイクでもするのかな?駅で寝泊まりするのかな?』

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なんて不思議に思いながらお爺さんを見送った。

翌日、職場のパートのおばちゃん達に昨日こんな変な事があったよ、なんて話をしたらおばちゃん連中がいっせいに

「うわ~、懐かしい!」「久しぶりに聞いたわ~!」

と言われた。

俺は意外な反応にどういう事かたずねてみた。

おばちゃん連中の中に旦那さんが運送業の人がいて、その人から面白い話が聞けた。

おばちゃんが結婚で滋賀県に来た30年程前に、旦那さんの運送会社で有名な幽霊目撃談があったらしい。

福井と滋賀の県境近くに深夜までやってる食堂があったのだが(今は潰れて廃屋らしい)、そこの駐車場に広島まで乗せてくれと頼みに来るお爺さんの幽霊が出る、というもので昔は地元で凄い数の目撃談があってかなり有名な話だったそうな。

だが、ここ最近は10年以上目撃談も無く、みんな忘れかけていたらしい。

俺は滋賀県に赴任して間もなかったので、いきなりそんな話を俺がした事で、おばちゃん連中はみんな一様に驚いていた。

確かに、お爺さんが俺に語った「手持ちのお金が無い」って話も、何でATMでお金を下ろさないんだ?とか携帯電話で清水市の事務所の人間を呼んで、お金を持参させるとかしないんだ?って疑問も、30年以上前の時代にそんなもん無かったのかもしれない。

昔は車が止まりやすい県境の食堂に居ついていたのが、時と共に食堂も下火になり、お爺さんの幽霊も活動場所を国道沿いのコンビニに移したのかもね……

俺の車のドアはちょっと特殊で、お爺さんでは上手く開けられないだろうと思って、ドアは俺が開閉してあげたんだけど、もし俺がそうしなかったら、あのお爺さんの幽霊どうやってドア開けたんかな……?

それにしても加齢臭の臭いといい、コートに付いた水滴といい、完全に人間としか思えない外見や雰囲気だったな。

(了)

 

瞬殺怪談 [ 平山夢明 ]

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