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秘密の趣味【世にも奇妙な短編集】

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時刻が午後六時になり、中西拓也は机の上を整理し始めた。同じく帰宅の準備をし始めた隣の席の鶴田稔が、拓也に声をかけた。

「中西、今日暇? 飲みに行かない?」
「鶴田さん、すいません。今日はちょっと、用事がありまして」
「どっか行くの?」
「はい、ちょっと……」

 少し顔が赤くなったのを悟られないようにしながら、拓也は急いで会社を出た。拓也がアパートに戻ると、同居している兄の幹也が着替えを済ませて待っていた。

「ごめん、すぐ着替えるからね」

 拓也は急いで着替え、鏡の前に座った。

「兄さん、今日のルージュは何色が良いと思う?」
「今日の私がピンクだから、あなたはワインレッドかな」
「OK!」

 中西拓也には秘密があった。兄の幹也の影響で、いつの間にか女装が趣味になっていた。週に一度は女性の格好をして、街に出て歩くのが快感なのだ。

 拓也と幹也の母親はイギリス人で、二人とも母親に似て色が白い。英語は話せないが、日本人離れした顔立ちだった。二人とも、女装は好きだが、恋愛対象は男性ではない。ただ、綺麗に着飾って街を歩き、熱い視線を浴びるのが最高のストレス発散だった。

 ナンパ目的の男たちが何人も声をかけてくるが、軽く手を挙げて通り過ぎる。時々、モデルにならないかと勧誘されるが、丁重にお断りをする。声を出すとバレてしまうので、いかにさりげなく断るかがポイントなのだ。

 そして、たまにいたずら心が芽生えてくる。知り合いなどに出会った時に、自分が拓也だとバレるかバレないか。それがまた刺激的でたまらなかった。中学時代の友人などに声をかけたりしたが、誰にもバレた事はなかった。

 拓也と幹也は、一時間後に合流する約束をして、それぞれ気ままに街を闊歩し始めた。早速、幹也が声をかけられた。拓也が今日も順調だなと思っていると、後ろから肩をポンポンと叩かれた。誰だ、と思って振り返ると、そこには懐かしい顔の女性が立っていた。

「拓也、何してるの?」
「えっ? 拓也って……、拓也って誰?」

 思わず声が上ずった。一発で拓也だと見抜いたこの女性は、高校時代に好きだった川嶋那奈だった。

「誰って、拓也って言ったら君しかいないじゃん」

 ちょっと強い口調で突っかかる那奈。口調は怒っていても、顔は笑っている。

「ちょ、ちょっと悪いけど……こっち来て」

 そう言って拓也は、那奈の手を引っ張った。那奈は、恋人繋ぎのように手を繋いできた。何だか懐かしい想いがした。人気のないビルの階段下で、拓也は那奈に話を始めた。

「これには少し、理由があるんだよ」
「女装癖があるんだね。いいじゃん、似合っているよ」

 そう言って那奈は、拓也が被っているロングのウィッグを撫でた。

「そ、そう? ありがとう」
「ねえ、ちょっと、二人で一緒に歩いてみない?」
「えっ?」

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 那奈は拓也の手を引っ張った。少しよろけながら、拓也は那奈に引っ張られて行った。高身長の二人が並んで歩くと、さすがに目を引いた。那奈は高校時代、男子の人気を集めていた美女であり、拓也の憧れの存在だった。

 運動が苦手だった拓也は、内気で引っ込み思案だった。バレー部のエースだった那奈の事を、拓也は遠くから眺めていた。しかし今、その憧れの女性が隣りにいる。緊張で顔が強張っている拓也の横で、にこにこ顔の那奈が対照的だった。

 那奈に連れられてデパートに入り、レディースの売り場へ連れていかれた。那奈の見立てで、いろいろな服を試着させられた。隣で女性が着替えている事にドキドキしながら、那奈に言われるがまま試着した。

「これにしたら?」と言う那奈の意見に従って、一着購入して店を出た。「私もう行かなきゃ」と言う那奈に、SNSの連絡先を教えた。

「一緒に写真撮ろう」と言って、那奈が拓也の肩を引き寄せた。那奈が顔を思いっきり近づけて撮った写真を、SNSで送ってきた。そして「またね」と言って、足早に那奈は消えていった。

 しばらくその場に立っていた拓也に、幹也から電話がかかってきた。「今どこ?」と聞かれて、慌てて約束の場所に向かった。

 日曜の午後、一昨日の興奮が冷めやらぬまま、拓也は零美の店を訪れた。ドアを開いて「こんにちは」と呼びかけると、「はーい」と大きな返事をして零美が走ってきた。席に通され、コーヒーを用意してくれた零美に、拓也は話を切り出した。

「あのー、相性を観てもらいたいのですが」
「相性ですね。その方の生年月日を教えてもらえますか?」
「すいません。ちょっとわからないんです」
「では、写真とかは?」
「写真、ですか……」

 拓也は、ゆっくりとスマートフォンを取り出した。那奈の写真を見せると言う事は、自分の女装も見られてしまう。那奈と撮った写真を選んだ後、「驚かないでくださいね」と言って零美に渡した。

「あっ……」

 写真と実物を何度も見比べる零美の、口角が少し上がったのが拓也にはわかった。

「お綺麗ですね、お二人とも」
「あっ、ありがとうございます」

 拓也は照れて、恥ずかしそうにお辞儀をした。

「随分と前からのお知り合いですかね?」
「はい。高校時代のクラスメイトです」
「この人、あなたの事が好きですよ。昔から」
「えっ?」

 想像もしていなかった言葉に、拓也は声も出なかった。

「この人、いわゆる肉食系女子なんですよ。綺麗な顔されてますけど、中身は男性です。でも、あなたは逆に女性的な性質の方ですから、お二人の相性は良いと思いますよ」
「そ、そうですか。それは良かった」

 肉食系と聞いて、拓也は少し悩んだが、自分が男らしくないので、逆に女らしくない女性が良いのだと納得した。

 拓也が店を出ると、SNSの着信があった。那奈からだった。「今日、会わない?」とのこと。「良いよ」と返すと「女装してきてね」と書いてあった。

 急いで帰宅した拓也は、メイクをして約束の場所に向かった。待ち合わせ場所の駅前に立っていると、後ろから肩をポンポンと叩かれた。

「待たせたね。行こうか」

 そこには、男装した那奈が立っていた。まるで、宝塚の男役のような那奈に見とれていると、那奈が声を低くしてこう言った。

「良かったら、僕たち付き合わないか?」

 拓也は、長いまつ毛を何度も開閉させて、黙って頷いた。

[出典:http://kaminomamoru.com/novel/long/shinreikanteishi-kagamiremi-2/48-jyosougasyuminootoko/]

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