短編 都市伝説

真っ黒な部屋【ゆっくり朗読】2500

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小学生の頃、俺は友達と2人で廃屋探検に行きました。

ターゲットは町内でも田舎な地域にある家で、結構新しいのに無人。

前の住人が自殺したとか殺されたとか、そういう噂が立っている所でした。

学校が終わってすぐその家へ向かう段取りだったのに、俺が職員室に呼ばれて説教を食らっていたせいで、出発がずいぶん遅れました。

しかもコンビニ寄って立ち読みしてたりで、現場に到着したのは夕方6時頃。

広い産業道路沿いの一角の、塀に囲まれた一軒家です。

周囲の空き地はススキが茂り放題で、いかにも空き家って雰囲気。

俺は「遅くなると怒られるよなー」とチキン入ってたんですが、友達はやる気満々です。

軽々と塀を乗り越えた友達は、早速玄関のドアをガンガン引っぱりました。でも開かない。

二人で手分けして入る所を探したんですが、窓は雨戸用のシャッターが閉まっているし、裏口にはカギが掛かっているしで、とても入り込めそうにありません。

この時点で俺は半分諦めてたんですけど、相変わらず全力投球な友達に気を遣い、一応やる気のカケラぐらいは見せておこうっていう軽い気持ちで、「引いてダメなら押してみろってな」なんて言いながら、玄関のドアを押してみました。

すると信じられないことに、あっさりと開きやがったんです。

「マジか!ウッソやろぉ!」

友達がダッシュで駆け寄ってきました。ボルテージは最高潮です。

「これは何かあるでぇ……」などととつぶやきながら、余裕の土足で上がり込んで行きます。

しかたなく、俺も後から家の中に入りました。

初秋で外は結構明るかったのに、家の中は薄暗いと言うよりほとんど真っ暗でした。

俺の持ってきたキーホルダーの豆球が頼りです。

探検ムードは盛り上がるばかり。

「うわ!」

突然、ある部屋の入り口で、先行していた友達が後ろに飛び退きました。

恐る恐る中を覗くと、部屋の真ん中に人影が立っていました。

俺らとタメぐらいの子供が、懐中電灯を持ってこっちをジーッと見ています。

白っぽい服を着た、見慣れない顔の女の子でした。

「お前、誰や?」

友達が聞きました。でも返事はありません。

「なにしてるんや」

今度は俺です。

「探検……」

その子がポツリと言いました。

「何時ここに入ったんや?」

また友達が聞きましたが、女の子はそれを無視して、

「ここはまだ入り口なの。でもこの奥に……」

と、そこで言葉を切り、部屋の奥にあるドアを指さしました。

「一緒に行きましょう」

それを聞いた友達は、その扉に向かって突き進んで行きます。

俺は気味が悪かったけど、仕方なくあとに続きました。

女の子が俺の後ろからついてくる気配がしました。

ドアを開けると、机と椅子が置いてあるだけの書斎みたいな部屋でした。

別に変わった感じはしません。

「なんも無い、フツーの部屋やな」

友達が言いました。

「残念~」

突然、女の子が妙に明るい声を出し、俺はなぜかゾクっとしました。

「ここのアイテムは私がゲットしましたぁ~」

そんな風に言って、ポケットから写真を何枚か取りだしました。

「なんやそれ?」

「壁に貼ってあったの」

そう言って見せてくれた写真は、おっさんが何人か写ってる写真でした。

ただ、どの写真も背景がべったりと黒一色に塗りつぶされていて、それが不気味でした。

「うふふふ……おかしな写真よねッ」

女の子の妙に明るいノリも気になります。

「次はこっちよ」

俺たちは、女の子に引っ張られる形で家の中をうろつきました。

どの部屋もほとんど真っ暗なんで、俺の小さいライトで届く範囲しか見えません。

女の子はなぜか懐中電灯を点けようとしない。

それでも目が慣れてくると、なんとなく様子がわかるようになってきました。

なんて事のない、普通の部屋ばっかりでした。

いい加減飽きてきて、『もう帰ろう』と言いかけたところで、廊下の突き当たりのドアの前に来ました。

そのドアが変です。

よく見ると、ドアの上の方、ちょうど小窓がありそうな辺りに、分厚い木の板が釘で打ち付けてあります。

ノブの所には、蝶つがい式の鍵と南京錠。

まるで、何かを閉じこめているような様子です。

南京錠は外れていたんで、俺が鍵を外してドアを開けました。

長い廊下が先に続いていました。

両側は板が打ち付けてあるばかりで、外の様子は全然見えません。

「渡り廊下かな?」

俺、友達、子供の順で、暗い廊下を先に進みました。

俺の後ろには友達がいるはずなのに、気配をあまり感じません。

ずいぶん離れて女の子が付いてきているようでした。時折、後ろから声が聞こえます。

妙に浮かれた口調で何か喋っていますが、内容はわかりません。

突き当たりにドアがありました。

さっきのと同じようなドア。小窓に板が打ち付けてあって、鍵も付いています。

ただ、こっちの鍵は、引きちぎられたように壊れていました。

それを見た時に感じたのは、ものすごくイヤな予感です。

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それなのに、俺は一気にドアを開けたんです。

真っ黒な部屋でした。

真っ暗じゃなくて『真っ黒』

壁や床、天井もそうだったと思うけど、全てが真っ黒に塗りつぶされた部屋です。

隅の方に、写真が立てかけてありました。

遺影みたいな感じの人の写真。でも、はっきりとは見えませんでした。

それよりも目を奪われたのは、ドアから見て右側の壁。

そこに押入があって、こっち側の戸が開いていました。

中にはキノコが生えています。

ヌルヌルとした粘液に包まれた、赤黒い小さなキノコ。

それがびっしりと、押入の床や奥の壁まで覆い尽くしていました。

押入の床も壁も、ヌメヌメと光るゲルにまみれて、内臓みたいに見えました。

出来の悪い悪夢のような光景に、吐き気を覚えながらも、それに魅入られるかのように、いつしか俺は中に足を踏み入れようとしていました。

「あ~あ」

突然、耳元で声が聞こえました。

「入ったら死んでまうのに」

低い男の声でした。

背筋が急にゾクッとして振り向くと、目の前に友達の顔がありました。

何とも言えない表情です。

悲しそうな、嬉しそうな、でもどこを見ているのか判らない虚ろな目。

部屋の中の光景とは違った意味で、俺は吐き気をもよおしました。

それでも勇気を振り絞って、目の前の友達に声をかけようとしました。

「おい……」

その時、足首のあたりがヒンヤリとした何かに包まれました。

そのままグッと締め付けてくる、ヌルリとした柔らかい感触。

何かが部屋の中から俺の足首を掴んでいる!

「うワァアァァア!」

俺は思わず悲鳴を上げ、友達を押しのけて廊下を走りました。

前方の暗闇に女の子の姿が見えます。あたりに響き渡る甲高い笑い声。

もう恐ろしくて気が狂いそうでしたが、無我夢中で走りました。

どこをどう走り抜けたのか、気がつくと俺は外に出ていました。

しばらく走って、道路沿いの自販機コーナーでようやく一息つきました。

ズボンをまくり上げ、自販機の明かりで照らして見ると、足首に異常はありませんでしたが、逃げ出す時にあちこちぶつかったのか、傷や痣がたくさん付いていました。

廃屋であったことについて、俺が覚えているのはここまでです。

あとは、家に帰るのが遅くなって、親にひどく叱られたことぐらい。

多少の脚色はありますが(セリフとか言い回しとかね)、95%くらいは本当にあった出来事です。

こうやって整理してみると、改めて気付いた事があります。

それは、記憶がかなりいい加減だなってことです。

何というか、アンバランスで『いびつ』なんですよね。

カギの掛かったドアや、女の子に見せてもらった数枚の写真。

そういうディテールは、細かいところまではっきり覚えているんですけど、家の中の様子なんかは曖昧な記憶しかない。

ただ、感触っていうか感情っていうか、怖いとか、気持ち悪いとか、そういう記憶が残っているだけなんです。

廊下の突き当たりの部屋に関しても、黒い部屋だっていう印象ばかりが強くて、中がどうなっていたのかは、殆ど覚えていない。

部屋に写真があったのは見てるけど、どんな写真なのかはわからないんです。

ドアを開ける前のイヤな予感だったり、足を掴まれた時の感触だったり、そういう自分の感じた事は、昨日の事のように蘇るんですけどね。

例外は、押入の中の光景と、耳元の低い声、振り向いた時の友達の表情。

特に友達の顔は、目に焼き付いて離れない位ハッキリと覚えていたんです。

ところが、あのあと友達がどうなったのかは覚えていない。

だから、気になって調べようと思ったんですよ。

……それが3日前の話です。

名前もわからないんで、卒業アルバムで顔を探そうってパラパラめくりました。

そしたら居ないんです、記憶の中の顔と一致する奴が。

そんなはずはない。

あの時、学校で待ち合わせして一緒に行ったんだから、絶対同じ学校に居るはずだって、何回も見直したんだけど、居ない。

そこで、改めてその友達の顔を思い出そうとしたんですが、黒い部屋の前で振り向いた時に見た顔以外、全然思い出せない。

虚ろなあの表情が、俺の中に残された記憶の全てでした。

それだけじゃないんです。

ずっと仲の良い友達だったと思ってたのに、そいつと一緒に遊んだ思い出が、その廃屋へ行った時のものだけだって事に、その時初めて気付いたんです。

「そんなアホな……」

そう思って、もう一度アルバムを繰るうちに、あるページのところで手が止まりました。

そこには、あの廃屋にいた女の子の顔写真が載っていたんです。

慌てて他のページも確認しました。

その顔は、卒業アルバムのいたるところに載っていました。

名簿には、ちゃんと名前も住所も書いてあります。

正体不明だと思っていた女の子の存在を確認した事で、俺の記憶は、いよいよアヤフヤなものに成り下がりました。

少し迷ってから、俺はその女の子(仮にミカとします)に連絡を取る事にしました。

幸い母親がミカの携帯番号を教えてくれたので、早速電話してみました。

最初は怪訝な口調だったミカも、事情を話すと、「ああ、あの時の……」と、思い出したようでした。

てゆーか聞いてみると、ミカはあの時のことを克明に覚えていました。

ミカはあの日、あの廃屋の近所に引っ越してきました。

で、あたりをブラブラするうちに廃屋を見つけたミカは、塀の隙間から中に入り、すでに開いていた玄関から上がり込んで、探検を始めました。

やがて書斎みたいな部屋で、数枚の写真を見つけました。

それを見ているうちに、持ってきた懐中電灯の明かりが消えてしまった。

それで少し怖くなり、探検を続けるか迷っているところで、誰かが玄関のドアを開ける音が聞こえてきました。

てっきり「大人が入ってきて怒られる」と思って、身を固くしていたところ、現れたのが自分と同じくらいの年頃の子供だったので、ホッとしたそうです。

安堵感でちょっとハイになったミカは、探検を続けるように持ちかけました。

あの時のちょっと芝居がかった仕草は、多少の演技を交えて好奇心を刺激する、ミカの作戦だったわけです。

女ってのは、つくづく怖い生き物だと思う……

その甲斐あって、現れた子供とミカは一緒に家の中を探検し始めました。

「そこで二人になったから、探検続けてしもたんよ。あそこで止めてたら……」

「え??ちょっと待って」

俺はあわてて聞き直しました。

「二人って……」

「だから、私と太一君の二人やんか。他に誰が居るっていうの?」

一緒に廃屋を彷徨ううちに、ミカは俺の行動がおかしいことに気が付きました。

誰も居ない方向に向かって話しかけたり、誰かの後を追うように歩いたり。

そういうのが気持ち悪くて、ミカは少し離れて俺の後ろを付いて回りました。

やがて、あの渡り廊下にさしかかったあたりで、喋り声が聞こえてきました。

ミカはてっきり、俺が独り言をつぶやいているんだと思ったそうです。

『こいつ本当に大丈夫か?』

ミカの恐怖心は、一気にふくれあがりました。

そして、俺が黒い部屋のドアを開いた時、ミカはものすごい悪臭を嗅いだのです。

思わず口を押さえ、後ろを向こうとした時、低い男の声で「……死んでまうのに」と言うのが聞こえました。

見ると、俺が虚ろな目をしてこっちを向いている。

真っ黒な部屋を背にした俺は、背景を黒く塗りつぶされているように見えました。

まるで、あの写真のように。

それで、ミカは振り向いて逃げ出したのです。

俺と同じく、夢中で逃げるうちに、いつしか自分の家の前まで来ていたそうです。

ミカはそれからしばらく、悪夢に悩まされました。

その後、学校で俺を見かけることはあっても、あの時のことを思うと、声を掛ける気にはならなかった。

だから今日までの俺は、ミカの事を覚えてなかったんです。

最後にミカがこんな事を言いました。

「でもね、こういうこと言ったら何やけど、太一君のいう友達っていうの、今も居るんだよきっと」

「え?」

「ホラ、さっき『二人?』って聞き直した時あったでしょ?

あの時、太一君の声にかぶってたよ。

マジで……って。低い男の声」

(了)

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