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短編 怪談

化けねずみに頭を半分かじられても闘い抜いたブチ猫の話し

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猫、忠義に身命を賭す(耳袋より)

昔、大阪のとある所に河内屋惣兵衛という町人の家があった。

惣兵衛には一人娘がいて、夫婦はこれを溺愛していた。

また家では、長年一匹のブチ猫を飼っていた。

娘も猫を大変可愛がっていたが、ある時から猫が娘につきまとうようになった。

片時も離れないその様子に、町では「あそこの娘は猫を婿にしたそうだ」などと陰口を叩かれたりしていた。

しまいに「あの娘は猫に魅入られているんだ」という噂も出て、縁談を断られるまでになった。

それを危惧した惣兵衛は「このままでは娘が嫁にいけなくなる」と猫を遠方へと捨ててきたが、いつの間にか戻り娘のそばにいる。

惣兵衛はどうしたものかと悩んだ。

ある時「ブチは捨てても戻ってきてしまう。かわいそうだが娘のためだ。殺すしかないか……」と夫婦でそんなことを話していた。

すると明くる日、話を聞いていたのか猫の姿が消えていた。

「ブチも分かってくれたか」と喜んだのもつかの間、その夜、夢にブチが現れた。

「おおブチか、話を聞いて姿を隠したのか?」

「まあそういうことだ。私のせいで良くない噂がたっているのは知っていた。しかし今殺されるわけにはいかなかったのでね」

「ブチや、それはどういうわけだい?」

「実は今、この屋敷には年を経た化け鼠がいる。あれはこの家にとって良くないものだ。そいつがお嬢を見初めた。私がお嬢の傍にいたのも奴を寄せつけないためだ」

「そうだったのか。私はてっきりお前が悪いのかと……」

「この家に飼われて幾年月、その恩を仇で返すつもりはない」

「そうか、お前を信じるよ。そうとなれば鼠取りは猫の本領、さっさと追い出して前みたいな暮らしに戻ろうじゃないか」

「そうしたいのだが、あれはそんな生易しいものではない。私だけでは十中八九返り討ちにされるだろう」

「そんな……」

「策はある。市兵衛のところのトラ猫と組んで奴を討つ。トラとならなんとかなるだろう。私は今動きがとれない。市兵衛と話をつけてきてくれ」

「わ、わかった。それで……大丈夫なのかい?」

「たぶんな」

そう言うとブチは消えた。

朝、妻に昨夜の話をすると「そうでしたか、私も同じ夢を見ました」と言う。

早速、市兵衛のところへ出向くと軒先に立派なトラ猫がいる。

市兵衛に事の次第を話すと快くトラ猫を貸してくれた。

家に帰ると、玄関にブチがいた。

二匹は真剣な表情で何やら相談をし始めた。

しばらくするとどこかへ行ってしまった。

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その夜、またブチが夢に出てきた。

「明日、かたをつける。日が暮れたら二階へあげてくれ」

「わしらに出来ることはないのか?」

「残念だが人の出る幕じゃない。なあに、猫が鼠如きに遅れをとる謂れはないさ」

と言って消えた。

次の日、惣兵衛は二匹にご馳走を振るまい、夕暮れに二階へ上げた。

惣兵衛は何が起こるのかと気を揉んでいたが、しばらくはあたりを静寂が包んでいた。

不意に、ミシリと、何か大きな獣が床を踏みしめるような音がすると、ブチの声だろうか、すさまじい雄叫びが屋敷に響いた。

一刻ほど経った頃か。どすんと大きな音が聞こえると、今までの騒音が嘘のように静かになった。

惣兵衛が蝋燭をもって恐る恐る階段を上がると、そこには猫よりも一回りも二回りもでかい化け鼠が倒れていた。

傍には傷だらけのトラが、激しい息遣いで鼠を見ていた。

ブチは鼠の喉元に齧りついてるようであった。

化け鼠の巨体が崩れて消えると、「ブチや」と惣兵衛が走り寄りブチを抱き上げた。

ブチはすでに絶命していた。

体中に傷を負い、頭半分を鼠に噛み砕かれていたのだ。

「普通に飼っていただけだった。それなのにお前は……」

惣兵衛はブチの忠心に深く感じ入り、庭に墓を建て、家族で手厚く葬った。

(了)

 

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