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短編

暗夜鬼・言霊返り

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去年の夏の話です。

388 名前:あなたのうしろに名無しさんが…… 投稿日:2002/02/25 20:35

私は現在都内に住んでいるのですが、実家は山形県の庄内地方にあります。

高校を卒業して以来実家には一度も帰省せず、実家からの連絡といえば時折来る父の電話ぐらいでした。

私の生家はいわゆる旧家という奴で、昔風な言い方をすれば庄屋と言うところだと思います。

私の生まれ育った集落は月山、出羽山、湯殿山に囲まれており、昔から霊山といわれるだけあり、子供の頃からずいぶん神社などにまつわる神的な行事が執り行われていました。

私の父はそういった行事の度に近所のとりまとめ的な物をやっていて、そういった時の父の顔を見ると子供心に妙な恐怖心を感じていました。

そんな中でも特に『言霊返り』という儀式があり、死者を蘇らせる儀式がありました。

この儀式は集落でも選ばれた物しか参加が出来なくて、子供であった私にはそれがどんな物であるかは知るよしがなかったのです。

それは五年ごとに行われる儀式でしたので、高校ぐらいの時にちょうどそれが行われる年があったのですが、私がいくら参加の意志を伝えても父は首を縦には振らないと言うことがありました。

結局そのまま私は東京の大学に進み、現在の職に就いているのですが、昨年の夏に急に実家の妹から電話があり、

「兄ちゃん、今年は帰ってこないの?何だか父さんの様子が変なんだよ」

というので、

「いったい何がどう変なんだ?」

と聞き返したのですが、妹の話がどうも釈然としない説明なのです。

「今年は言霊返りだよ、何かその準備で父さん仕事もそっちのけなんだよ」

『言霊返り』

……その言葉を聞くのはあの高校の時の夏以来でした。

特に盆休みに何も予定がなかった私はその夏に実に5年ぶりに実家に帰省することにしました。

実家についてみるとあの時のまま何も変わらない風景が私の前に広がり、何だか太古の昔から変わっていないような気もしました。

その瞬間携帯が鳴り、急に私は現代の生活に苦笑しました。

電話は父からで、社の方で飲み会を近所の集としているからおまえも来いとのことでした。

妹の話とは裏腹に特段変化のない父の声を聞き、何だか帰ってきたことに後悔を感じつつも私は社に向かいました。

社では幾分老けた父と近所の方々がすでに上機嫌で待っており、

「太一ちゃん元気か?今年の言霊返りはやっと参加するんだな」

と叔父が私に向かい言うのです。

いきなり参加するんだと言われても何も状況が読めない私は父に

「どういう事?」

と尋ねるのですが、父の方はとりつく島もないというか、ただただ

「そういうことだ」

と酒をあおるばかりでした。

久しぶりに帰ってきて急に訳のわからないことを言われた私は少し不機嫌になり、その場を早急に離れ、実家の方に向かいました。

その道すがら墓地の前を通るのですが、久しぶりに墓参りでもしていこうという気になり、家の墓の前に立ち、手を合わせました。

ふと墓の横に掘ってある、自分の祖父や祖母の名前を見たのですが、どの戒名も、祖父や祖母に限らずそのもっと前の祖先の全ての戒名に『鬼』という文字が含まれているのです。

私はこの文字にとても不自然な気がしました。

だいたい仏になる人に鬼なんて文字を使うんだろうか?

「おい太一じゃないか」

その声に私は先ほどの疑問が消え、声の方に向きました。

声の主は高校の時の同級生の忠次でした。

忠次の家も私の家と同様に行事ごとにとりまとめる家でした。

だいたい子供の頃からこいつとはソリが合わず、嫌悪すら感じる相手でしたが、久しぶりに見る忠次は私よりかなり老け込んで見えました。

「おまえもやっと今年参加するんだろ。明日の夜は忙しいぜ、暗夜鬼の盃をうけなやならんしな」

一体こいつは何を話しているんだ?

こんな場所にずっと閉じこもって年寄りじみちまったんじゃないか?

そんな私を後にして忠次は来た道を立ち去っていきました。

「言霊返り」、「暗夜鬼」………

帰省したこと自体間違いだったかな?と、とぼとぼ生家に向かいました……

(了)

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